第6話 魂の咆哮、英雄を撃つ
ルメールはハーツクライを敢然と先行させたのだ。
それまで一貫して後方待機策だったハーツクライを、逃げが本領たるタップダンスシチーの後ろにつけさせて前目でレースを進めたのである。ハーツクライの果敢な先行策にスタンドの観客もどよめいた。
競馬とはとどのつまり「他の馬より先にゴールすれば勝ち」なのであり、他の馬よりも先にレースを進めて、前の馬を競り落とし後ろの馬の追撃を抑えれば勝てるのである。かなりの暴論ではあるが、極論すればそういうことになる。
前を行けば自分のリズムでレースを進められる反面、後ろから来る馬の標的にされやすいリスクを負う。特にディープインパクトのような神がかり的な末脚を持っている相手に対して先行すれば、そのリスクは更に増すと言える。しかし、もし、そのリスクが額面通りで無かったとしたらどうなるだろう?
レース終盤、いつも通りに最後方から追い込みを図る武豊とディープインパクト。しかし、武豊はディープインパクトの走りに違和感を覚えていた。ディープにいつもの跳ねるような感じがない。
その時、ルメールとハーツクライは逃げたタップダンスシチーを競り落とし、そのままゴールまでの粘り込みを狙っていた。懸命に追いかけるディープインパクトであったが、ハーツクライに中々追いつくことができない。
その光景にスタンドからは悲鳴が響く。
そして、ついにディープはハーツクライに追いつくことが出来なかった。ハーツクライがゴールしたとき、ディープインパクトの姿はその半馬身ほど後ろにあった。
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