第6話

「おはよう、小林さん」


 大人しく本を読んでいると、隣から声を掛けられた。

 …今いい所だったのに。主人公がヒロインにどう行動するのか気になるんだけど。

 名残惜しく本を閉じて声が掛かった方を見ると、人懐っこい笑みを浮かべた短髪の男がいた。


 あ、渡邉だ。こいつ渡邉だわ。渡邉雅哉わたなべまさや

 見たことある顔だなーって思ったんだよ。

 普段クールなやつだから、この優しげな笑顔のギャップに吃驚仰天だ。


 渡邉と俺は同じ部活で、仲がいいのかは分からないが話すには話す。


「…小林さん? 大丈夫? 体調悪い?」


 と、渡邉は眉を下げて心配そうに俺を見た。


 …やべえよ。今まで見たことないチームメイトのカオ知って動揺しかしねえよ。

 渡邉がこんなワンコ系だとは知らなかった。いや別に知りたかったわけではないけども。


 そこでピキンと俺の頭にとある予想が浮かび上がった。

 さてはこいつ、小林さんのことが好きだな?

 ニヤニヤと笑いそうになる顔を治めて、渡邉を見る。

 俺的な感情やらは今は置いといて、まずは小林さんとしての対応をしないと不味い。


 小林さんが雛藤くんに反応しないのは先程理解したが、渡邉の心配する様子を見る限り多少話す関係ではありそうだ。


「いえ、大丈夫です」


 深い仲でもそうでなくても不審に思われないギリギリを狙った返しをする。

 渡邉はそれに何も思った風はなく、良かったと笑っていた。

 俺はそれを見て、ゾゾゾッと背中に薄ら寒いものが走った。

 え、マジで渡邉って小林さんのこと好きなん?

 マジLOVEなん?


 …まあ、人を好きになるのは個人の自由だけども。


「じゃあね、小林さん」


 渡邉は、笑って自分の席に行ってしまった。渡邉の席は廊下側の一番後ろらしい。

 ……わざわざこの席まで挨拶に来たのか。


 本に視線を落として、冷静な風を装うけど、渡邉に対してちゃんと小林さんに成れていたか心配で、ヒヤッとしていた。

 冷や汗を小林さんの体で流してたまるものか…!


 その後、誰からも話しかけられることなく、ホームルームが行われていた。

 いつもの俺の朝の時間は、友達とわーわーだべってたから、これまでの静かさに違和感しかなかった。

 あと、この組の友達が席の近くを通った時、声掛けそうになって、それはもうやばかった。



 そして、午前の授業が始まった。


 進度の違う授業に戸惑い、小林の綺麗に整理されたノートに見蕩れ、グループ活動ではほとんど無言を突き通し、なんとか昼までやって来れた。


 …とりあえず…おつかれ。午前の俺。

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小林さんの異能力は入れ替わりだそうで うさ公 @ussaaa

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