第5話
ついに登校のお時間がやってきた。
美味しい朝ごはんを食べたので、元気いっぱいだ。
今日誰にも気づかれずにいける気がしてきた。
俺の通う学校は中高一貫の私立。
普通の家庭よりお金を持っているところの子供が基本的に受験しているような学校だ。
俺の家は金持ちではないんだが、この学校の受験で一番良い成績を出すと入学料諸々免除されるというのを狙って高等部を受験した。
その学校の門までやってきた。ここまではただ歩いていれば良かった。しかしここからは学校内。いつ知り合いに会うか分からない。気を引き締めて行くぞ。
一歩、門に踏み出した。
「小林さん、おはよう」
ふぎゃぁぁぁあ!!?
危ねぇな! 声出すところだったろ!?
というかちょっと肩ビクつかせちまったじゃねぇかこんちくしょう!
人が集中している時に後ろから声を掛けないでほしい。
ゆっくり発声源を振り返ると男がいた。
誰だ。
というか小林さん友達いないはずじゃ…いや、友達として見られてないのかこの人。
で、誰だ。
どう見てもイケメンだとしても、普通一人の女子生徒に易々と挨拶するもんだろうか。
俺なら挨拶したとしてもすぐどっか行く。
こいつみたいにずっと後ろには立たない。
この男に対して小林さんはどう対処していたのだろうか。
挨拶、するのか?
でもあの優しい小林さんのことだし挨拶してるだろうな。
よし、あいさ…
「小林さんいっつも
「ホントだヤバー」
口を開きかけた時、傍を通りかかる女子たちのヒソヒソ話が耳に入った。
…無視、してるのか。
ヤバイ。あの女子たちに言われたように、俺はきっといつもの小林さんと違う行動をしている。
軌道修正に入らないと。俺は口を真一文字に閉ざして、イケメンを無視し校舎に向かった。
雛藤とかいう男子に追われていないことが分かると、ほっと胸中で息をついた。
…なんとか第一関門は突破できた、のか?
今ので学んだのは雛藤くんには塩対応をするということだ。基本無視。
…なかなかに酷い対応だな。
一年D組十二番の靴箱の位置を確認して、靴を履き替える。
次は教室に向かう。
各学年六クラス。三クラスごとに教室のある階数が変わる。俺のC組は三階、小林さんのD組は二階だ。
いつもの行動とは一階分違うので慣れとか習慣で間違えて三階に行くと、とても恥ずかしいことになる。
とか思っていたら三階へ続く階段へ足を向けそうになっていた。非常に危ない。
D組の教室へと足の向きを変えて進む。
確か小林さんの席は窓側から二列目の最後。
ガラガラとスライドするドアを開ける。
音に反応して集まる視線が俺を圧迫してくる。
いやぁ、D組とは授業で時々一緒になるけど、クラスの一員になるのはそれとこれとは全く違うっていうもんだな。
小林さんの席に座ると、集まっていた視線は散った。
「小林さーん、あのさ、英語辞典持ってきた?」
「ミサー! 小林さんが忘れるはずないじゃん」
視線の次は女子が来た。
英語辞典、か。……えーっと、俺持ってきたっけ? 否、持ってきていない。小林さんも何も言っていなかった。
小林さんは置き勉派だろうか。ワンチャンロッカーか机の中にある。
女子たちが笑う声を聞き流しながら、ひっそりと机の中を探る。
本のような硬い感触に当たる。
いや絶対本。厚さ的に。
続いて厚さのあるものに当たった。
絶対これだろと引き出して見てみる。
古語辞典だった。
焦ったものの、英語辞典はロッカーの中にあった。
今気づいたんだけど、小林さんの姿でものを忘れるってのは綱渡り並だ。
ちなみに落ちたらマグマ地獄。
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