第4話
「君が澄玲と入れ替わったという…」
「はい」
和な一室に沈黙が落ちる。
夕飯を終えた俺は、小林さんのお父さまと対面していた。
お父さまの名前は小林
お父さまとの対談なのだ。緊張という言葉で表して良いものなのか。正座した足が痛い。
小林さんのお父さまは若々しさのあるおじ様だった。
この家系は必ず顔が良いように造られているのだろうか。
「娘がすまなかった」
「いえ。不慮の事故というやつですから」
頭を下げるお父さまに内心大慌てしながら、冷静に返した。
小林さんの姿でみっともないところは出せられないのだ。
「うちの親戚も君に迷惑を掛けたらしいしな。…紅野幸弥くん。娘を宜しく頼む」
まるで娘を嫁に出すような言い方だ。
勘違いしないでほしいが、俺と小林さんは付き合っていないし結婚しようともしていない。釣り合わせるのは申し訳なさすぎる。
そんな感じで終わった小林一家との初対面。
小林さんの家の暖かく優しい雰囲気に少し泣きそうになった。なんでかは分からない。
女の子の匂いがする小林さんの部屋で、落ち着いていると(落ち着けてはいない)、小林さんから連絡が来ているのに気づいた。
連絡内容は明日の時間割だったり明日までの課題だったりのことだった。
最後に俺を気遣う文が添えられてもいた。
それら全てにまとめてありがとうと返した。
あと、小林さんの家族は優しい人達で安心したと。
明日が一番大事だ。
小林さんと周りの雰囲気、関わり方、その他諸々を観察しながら、いつもの小林さんと不自然でないように振る舞わなければいけない。
…よし。お風呂入りに行こう。
トイレはなんとかなったが、お風呂は目を逸らし続けるのは難しい。頑張らなければ。いや、何に頑張るのか分からないけど。
「なんっだこれ!? 髪超洗いにくい!」
こうか!? これが正解なのか!?
と騒ぎながら長い髪を洗う。どうしよう腕が疲れてきた。ムリィ…
「幸弥ちゃーん、大丈夫? 手伝おうか?」
美代子さんが声を掛けてくれているのが耳に入った。
俺はそれに甘えることにした。ここで意地を張ってこの綺麗な髪をボロボロにするのは嫌だった。
慣れたように洗っていく美代子さんの手は、凄く気持ち良かった。寝そうになったほどだ。
しかし背中を洗うと出ていってしまったが。
まあ、たとえ母親であろうと男女関わらず体の前の部分は他人が洗ってはならないだろう。
…ふにふにとした感触とか、俺知らないし。
無事風呂から出ると、また小林さんから連絡が来ていた。
本棚にある本は自由に読んでいいという内容だった。
そういえば、友達はいないって言ってたっけ。友達がいなくて休憩時間暇な分を読書で済ませろってことかな。なるほど。
よし。明日の準備をしたらすぐ寝よう。
俺はいい匂いに包まれながら、夜を過ごした。
そういえば、なんであんなに傍にいて安心出来る雰囲気を持つ小林さんに友達がいないんだろう。
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