第3話
小林さんのお兄さんの車に乗って、小林さんの家に向かっています。
なんというか、何を話せばいいんだろう。
よく考えたら、俺今から他人のお家で一週間過ごすってことだよね?
基本お泊まりとかって一人は話せる知り合いいるから、それなら今回って一人だけのアウェイ感すごいな、きっと。
入れ替わってるの知ってるとしてもだ。
うちの娘(妹)を~うんたらかんたらーとか言われたらどうしようもない。
「今まで二回、妹と入れ替わったことがある。親父は一回。お袋は五回。友達は一回」
急に話し始めたお兄さんに驚いて、隣を見た。隣の運転席に座るお兄さんは、前を向いている。
運転しているから当たり前だけど。
お兄さんが話す内容は、小林さんの異能力こことだった。
きっと入れ替わった回数全部、故意的なものはないんだろう。お兄さんの表情は苦々しいものだった。
「一番最初は五歳の時。友達と入れ替わった。その後お袋と。そこで澄玲に何かがあるとわかった。あいつとの入れ替わりが最初を除いて身内だけで済んでいるのは、人と一定の距離を取るよう注意しているからだ。無差別な入れ替わりを恐れている澄玲が、君と入れ替わった経緯が分からない。俺の妹に何かよからぬ事をしていないだろうな?」
計算していたかのように、お兄さんが俺に睨みを効かせるのと同時に赤信号で車が止まった。
お兄さんから発せられた言葉がまだ上手く整理できていない。
「よからぬ事、は絶対していません」
「だろうな。で、何があった」
「小林さんが椅子に足を引っ掛けてしまって、転けてしまいそうになっていたのを助けようと抱きとめたらこうなってました」
催眠術に掛けられたようにスルスルと真実が出てくる。
あ、そういえば貰ったお見舞いの箱のやつ、今なら食べられるな。喋りながらふとそう思った。
「はぁ…なるほどな。この一週間こちらはできるだけ君をサポートする。困ったことがあったらなんでも相談してくれ」
「はい。ありがとうございます」
信号は青になって、車は再び進み出した。
ここまで話してくれたお兄さんをちらりと横目で見る。
小林さんは良いお兄さんを持ってるんだなぁ、となんだか胸が暖かくなった。
羨ましいとも思った。
「着いたぞ」
そう俺に伝えると、車のエンジンを切ったお兄さんは素早く車から降りた。
俺もそれに倣うように綺麗に整えられた庭に足を着けた。
ちょっと落ち着いて見てみると、お兄さんの乗ってる車ってなかなか良いやつじゃないだろうか。カッコイイし。
でも脳の奥底で車に対する恐怖が渦巻いていた。あの時のように轢かれるかもしれない。突然動き出すかもしれないぞと。この車はあれより大きくないし多分大丈夫、なはず。
「おかえりなさい!」
お金持ちが住んでそうな日本家屋から、綺麗な女の人が出てきた。
綺麗でもある程度は歳をとっているような雰囲気がある。もしや小林さんのお母さまだろうか。
お母さま(?)は俺をはっきり目に入れると、ニッコリと笑った。
「はじめまして。私、小林澄玲の母、
「紅野幸弥です」
体は小林さんですが、と思いながら名乗った。
美代子さんは次にお兄さんに向かった。
「
「…すまない。俺は小林真太郎。澄玲の兄だ。宜しく頼む」
「は、はい」
急に改まられて背筋がピンと伸びてしまった。美代子さんと真太郎さん。…よし覚えた。
「夕飯が出来たら呼ぶからそれまで幸弥ちゃんは真太郎にくっついてて。まるでひっつき虫のように」
そう言った美代子さんは、立派な日本家屋に入って行った。
俺、あそこに入るのか。庭だけでも足が退けてるのに。
それより、美代子さんは小林さんの中身である俺を女の子だと勘違いしていないだろうか。『幸弥ちゃん』なんてあまり呼ばれないから違和感がありまくりだ。
「あの、お母さまには小林さんの中身の俺のことって伝わってるんですか?」
「知らん。お袋が知らなくても俺が君たちのことを知っていれば大丈夫だ」
訊いても“知るか”と一蹴されてしまった。
でも、それに続いた言葉が頼りになりすぎてカッコ良さに拝みそうになった。見習いたい、カッコ良さ。
顔も良いし完璧だな、この人。
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