第4話




次の日、朝にキヨさんから話があると言われ店のカウンターの前で待っていた。

「ユウに渡す予定だったけどアイさんにこれあげる」

「黒い布……これは何に使うんですか?」


キヨさんが私の背中にある『長い剣』に視線を送り、

「その魔剣に鞘がないからこれを使って。 呪剣なんて怖いじゃない。 黒赤鬼の皮膚で作っているから安心してね」

手に取ると確かに丈夫そうだ。袋状になっていて、入れると魔剣の異様な雰囲気が無くなった気がした。


「この素材のモンスターってどれくらい強いんですか?」


「『天の枠を越えたもの』より強いらしい。 採れた素材は魔力を吸収・保持する機能があるから剣との相性は良いわね」


「それって勇者や魔王より強いってことですよね? そんな希少な素材はどこで手に入れたんですか?」


「つい最近、どこかの少年が一人で討伐らしい。アイさんも知ってる人よ」


いやいやいやいや、まさか……。でもキヨさんとヒナノさん一撃を同時に防ぐことができるのなら……。


「……ユウ君はいったい何者なんですか?」



「まだ騎士団にいた頃の話。 ユウとその姉のアーシャとの模擬戦を見たことがあるの。 魔法と剣の戦いだし、当時はユウも幼かったから何とも言えないけどなぜかユウが勝ったの。 その時にアーシャが『これはあなたの力じゃない』って言ってた。 決して負け惜しみで言った言葉ではなくね。 それ以来アーシャはユウのことを嫌っているの。 姉弟だから何か分かったかもしれないけど。 だからユウの強さはユウ自身のものではないのだと思う」



私を助けてくれた時も男の人をあっけなく倒していたし。謎が深まるばかりね。

「とりあえずこれありがとうございました。 私も強いモンスターを倒せたらここに来ますね」


「武器のことならいつでも来て。 夜まで時間あるなら、元騎士団長の私が剣術を教ましょうか?」


そこれからキヨさんの修行で何回も死ぬ思いをした。






黒欲赤欲のコンディションはばっちりだ。魔力も安定している。今夜の戦いで前世の記憶の手掛かりが見つかると良いのだが……



夜になりキヨの店で皆を待っていた。少し経ってヒナノさんが来た。

満月の美しい光が窓から降り注いでいる。彼女の金髪が月光に反射して幻想的に見えた。


「アイさんはまだですか?」

「雷鳴と地下の闘技場にさっきまで何かしていたな」


「お……お待たせ……私……もう無理……」


ボロボロになったアイさんが匍匐前進ほふくぜんしんしながら地下から階段を登ってきた。


「これから戦いに行くのにもう殺られた後じゃないですか!!」


するとアイさんの後ろからひょっこりキヨさんが顔を出していた。 申し訳なさそうな顔をしている。


「……少しだけ……少しだけ鍛えようと思ったら何回も殺してしまうところだった」


「つまみ食いをしたように言わないでください!」


ついついツッコミをかましてしまった。


ヒナノさんがアイさんに回復魔法を施し、僕たちは夜の町へ出た。





道中ヒナノさんが色々教えてくれた。

「吸血鬼ハンターはリーダー以外は金で賊を雇っていて、基本アジトはそのリーダーしかいない。 私も一度しか見たことがないが、銀狼族の双剣使いだ」


「銀狼族……今晩は満月ですね」


アイさんが呟いた。


「銀狼族は満月になると魔力が高まるから注意ですね。 アイさんは絶対僕から離れないでください」


「分かったわ」


「見えた。 あそこ」

ヒナノさんが指を指した。


指先にあったのは教会だった。


大きな扉の向こうには祭服に鎧を身に付けた銀狼族の男がいた。


「そこの女の子がダークネスヴァンパイアかな。 まさか逃げずにここに来るとは」


普通に話しているが殺気が迸っている。ヒナノさんが言った『秘めた力』がなんとなく分かった。


「私の名前はロイザ。 そしてこの子は息子のライハだ」

隣には子供がいた。その子を教会の隅に行くようにロイザが促した。


「君たちは勘違いをしているようだが、私たちは正確にはハンターではない。 ある方から命令を受けて動いている」


「『ある方』とは誰ですか?」


「それをまだ君たちに言うつもりはない。 さあ、殺ろうか」


ロイザは両腰にある二本の剣を抜きながら言った。


それと同時にアイさんは魔剣を抜き、ヒナノさんは『アマリリス』、金炎の槍を召喚した。



ロイザは一直線に僕の方へ向かってきた。

道を塞ぐようにヒナノさんが割って入ってきた。


ヒナノさんは後方へぶっ飛び、ロイザは双剣の片割れを弾かれ天井に突き刺さった。

しかしロイザは笑みを浮かべ、手に持っていた剣が輝きだした。まるで呼ばれて返事をするかのように天井に刺さった剣がロイザの手元に帰ってきた。



「君のその槍は『華の王』の遺産だね。 精霊と契約した力。 精剣いや、精槍と言ったところか。 私の剣は──」


「『銀翼の白き双竜』ですね」


どう考えてもおかしい。これは、この剣は前世であの魔女が持っていたものだ。


「よく知ってるね。 じゃあこれは分かるかな?」


ポケットから小瓶を出し、そして中には赤い液体が入っていた。全て飲み干した後、ロイザの目は赤くなり、八重歯も鋭くなった。


「吸血鬼みたい……」


アイさんが言った。


「行きますよ~」


ロイザは笑いながらさっきよりも速く向かってきた。


「双剣連撃技『六華の舞』」


六角形に移動しながらの連撃技。こちらも二刀あったのは幸いになんとか防ぐことができた。


「この技を防ぎきるとはただの少年じゃないですね。 しかもその剣は私の剣と同等の品物。 ですが名前を知っていると言うことはこの剣の能力も知っていると言うこと」


そう、知っている。『銀翼の白き双竜』に傷を負われた者は傷口が石化する。長期戦はこちらが不利。しかもアイさんは素人でヒナノさんは最初の一撃でダメージを負っている。


「じゃあ死んでください──」




その刹那アイは見逃さなかった。ユウの眼が青くなるのを。

ユウは距離を空け黒欲だけ持ちそして構えた。




「──擬似魔剣『闇の不知火』」

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