女子小学生が舐めたアイスの棒を渡されました

きり抹茶

お兄さん、これ当たりました!

 あれは私がまだ学生だった時の話だ。


 夏休み返上でバイトに明け暮れていた毎日。この日も私はコンビニのレジカウンターで、列をなす客をてきぱきと捌いていた。


「いらっしゃいませー」


 昼時のリーマン&OL達による弁当ラッシュが終わり、客足も徐々に途絶えてきた頃。十歳前後と思わしき女の子二人が来店した。

 一人はタンクトップとホットパンツという夏らしい開放的なファッション(だったはず)、もう一人は半袖シャツにミニスカートだったかな。詳しくは覚えていないが、まあごく普通の女子小学生がコンビニに来たということである。


 彼女らはアイスが山積みされたゴンドラへ直行し、友達であろう女の子と会話しながら商品を物色していた。それから程なくして、手が空いていた私のレジに彼女達はやって来た。


「お願いしまーす」

「はい、お預かりします」


 行儀の良い言葉と共にカウンターに乗せてきたのは二本のガリガリ君だった。(確かソーダ味だったと思う)

 ……少々話が脱線してしまうが、小学生ぐらいの子ども達は礼儀正しい子が多いと思う。財布から小銭を一生懸命取り出す姿とか最後に「ありがとうございます」と言われたりするとこちらも元気が貰える気がする。少なくとも「マイセン十ミリ(※)」とキレ気味の口調で言ってくるオヤジよりは千倍優良な顧客である。


 ※煙草の銘柄であるマイルドセブン(現在のメビウス)の略。陳列棚に番号が書いてあるにも関わらず意地でも番号を言わない人種が割と多く、コンビニバイトの初心者を日々苦しめている。



 さて、そんなこんなで会計を終え、女子二人組はガリガリ君を握りしめたまま店を後にした。夏休みを楽しめよ、という私の温かい目線も露知らず、彼女らは店前の駐車場で早速ガリガリ君の包装を剥いでいるようだった。


「すみません、アメリカンドッグ一つください」

「はい、少々お待ちください」


 客を見送れば次の客がやって来る。私は再び目の前の接客作業に取り掛かっていた。




 ところがしばらくして――。


 二人の女の子が再び店内に入ってきたのである。それも商品棚に向かうことなく、私のレジへ直行してきたのだ。まさかクレームか……?


「お兄さん、これ当たりました!」


 予想とは裏腹に、女の子は先程買ったガリガリ君の木の棒を無邪気な笑顔で差し出してきたのだ。めちゃくちゃ嬉しそう。うん、大人の私でも「もう一本」という文字が見えたらテンションが上がるもん。


「おめでとう。交換するならもう一本持ってきてね」

「はーい! あ、違う味でも大丈夫ですか?」

「値段が同じなら大丈夫ですよー」

「はーいっ!」


 当たったのは一本だけだったが、二人とも嬉しそうな笑顔を浮かべていた。仲良さそうでよきよき。

 それから当たり棒の交換処理をレジで済ませ、女の子は店を後にした。

 しかし私の手元にはある物が残っていた。



 そう――ガリガリ君の当たり棒である。それも女子小学生が食べたばかりの棒、なのだ(私は事実を述べただけだ。事案ではないぞ)


 これをどうするか……いや、普通に水で洗って乾かしてからレジのドロワーにしまうのがマニュアル通りなんだけど……。

 当たり棒を握ったまましばしの時が流れたが、やがて次のお客が来てしまったので、私はやむ無くレジ横のスペースに置いて接客業務を再開した。




 ところがところが。しばらくして――。


 またしても例の女の子達が訪れたのである。しかもきゃっきゃとはしゃぎながら私の前までやって来て……。


「また当たっちゃいました!」

「うわ、本当だ」


 当たり棒で交換したガリガリ君が当たったのだ。なんという無限ループ。これは驚き。


 凄い凄い、とはしゃぐ女の子を前に私も「すげぇ……」と感心しながら十数分前と同じレジ操作をする。これで三本目か。女の子よ、腹を壊すなよ。


「ありがとうございましたー」


 わいわい喜びながら店を出ていく彼女達を営業スマイルで見送り、視線を女の子の背中から自身の手元へ移動する。


 これは参った。女子小学生が食べたアイスの棒が二つに増えてしまったのである。両手に持てば夢が……いや、これ以上はやめておこう。

 それにしてもこの状況。放課後の教室で好きな女の子のリコーダーを手にした時に漂う独特な緊張感に似ているのではないか? 実際にやったことが無いから分からないけど多分似ているはず。経験者居たら教えて。


 まあこれ以上の思考を巡らせたらバイト上がりにパトカーの送迎サービスを受けてしまいそうなので冷静になろう。私はマニュアル通り、女子小学生が舐めたアイスの棒二本を水道水で綺麗に洗い流して、しっかり乾かしてからレジのドロワーに収納した。現場からは以上です。






 ※実話ですが、実際に当たり棒を手渡されても何も感じませんでした。本当ですよ。自他共に認めるロリコンですけれど、二次元と三次元はまったくの別物ですからね。

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