第291話 案内の対価
「ひとまず、落ち着けましたね」
里長から滞在許可をもらった僕らは、ジンさんが暮らしていたという空き家に案内されると一休みをすることにした。
「ん、私たちの先祖がここを訪れていたのは大きな収穫だった」
ルナはフリルが付いた寝間着に着替えると、素足でペタペタと歩き回っている。
ジンさんが居なくなってからはノエルさんが掃除をしていたらしいのだが、それでもホコリが積もっていたので【クリーン】で綺麗にしてある。
ルナはこれまでの旅の汚れを落とし、寛いでいた。
「そう言えば、ルナさんとマリナさんとアンジェリカさんにセレーヌさんも過去に現れたアルカナダンジョン攻略者の子孫なんですよね?」
イブは今更ルナに確認をする。
その攻略者が異世界からきた転移者だということを彼女は知っているのか知らないのか……。
「うん、アルカナダンジョンを攻略した後、それぞればらばらになった。モカやアナスタシア、それにシルバーロード王国は攻略者の血を取り込むため、王家に迎え入れたんだよ」
優れたスキルを持つ人物との間に出来る子供は優れたスキルを持って生まれる可能性が高い。
各国の王侯貴族は優秀な人物を積極的に取り込んでいたそうだ。
「攻略者たちはモカ王国にあったアルカナダンジョン【ザ・チャリオット】を攻略した後、それ以上ダンジョンに潜るのを止めたとあります。そうすると、ここのアルカナダンジョンを訪れたのはその前と言うことになりますね」
「イブの言う通りだろうね。問題は、どうして挑まなかったのか?」
転移者がここを訪れたということなら、僕がモカ王国の蔵書で確認したアルカナダンジョンの手掛かりは、アンジェリカの先祖である転移者が書き記したものということになる。
転移者たちはここでアルカナダンジョンを発見しておきながら、攻略を断念したことになる。犠牲を出しつつも【ザ・チャリオット】を攻略した彼らが何故退いてしまったのか……。
「力量が足りていなかった、もしくは攻略できない理由があったのかも?」
ルナはそう言うとテーブルに顔を乗せる。白銀の瞳が僕を見てきた。
「確かにありえるかも」
文献を読み漁る限り、転移者は何らかのチート能力を持っていたようなのだが、異世界にきてからそれ程経っていない場合、強くなってない可能性もある。
そんな状態で、この森を訪れ、アルカナダンジョンに挑んだものの、危険を感じて引き返した。これならば納得がいく。
「でもそれなら、イブたちには関係ありませんよね。何せもう既に三つもアルカナダンジョンを攻略しているわけですし」
あくまで楽観的なイブ。だが、アルカナダンジョンの難易度にそれほど差がないことを考えるなら、僕らに攻略できないわけはない。
「いずれにしてもエルフの案内は必要だ。明日頼んでみるとしよう」
結局、この日はそれ以上話し合うことをせず、翌日改めて里長と話すことにした。
「なるほど……アルカナダンジョンへの道案内……か?」
翌日、僕たちは里長にアルカナダンジョンへの案内人を出して欲しいと頼んだ。
「もちろん、御礼はします」
「ふむ、人族の貨幣や魔導具をもらっても使い道がないのぅ」
里長はアゴヒゲを撫でると興味なさそうな態度をとる。
もともと自然とともに生きる種族だけあってか、金銭や宝飾に興味もなく、武器や防具などの魔導具も不要なのだろう。
「どうする、エリク?」
ルナが唇を動かし首を傾げた。
「案内がなければ先日までと同じ、道に迷い続けることになる」
エルフの協力なしに森を歩き回る無謀さを散々体験させられたのだ。
僕らがどうすべきか悩んでいると、里長が口を開いた。
「人族の物は欲しくないが一つ提案がある」
「何ですか!? 何でもします!」
里親の言葉にイブが食い気味に詰め寄った。流石に無茶なことは言わないだろうが、絶世の美少女であるイブが言うと良からぬ考えを抱きかねない発言だ。
そうなった場合、僕では駄目か交渉しようと考えていると、里長は提案を口にする。
「この村は娯楽に飢えておってな。村のエルフを集めるので余興でもやってくれんかね?」
僕はこの提案を受けることにした。
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