第287話 アルカナコアの行方は?
ヒルダさんの問題を片付け、僕はベッドに横になって身体を休めた。
アルカナコアの盗難がヒルダさんの仕業でないとすると、犯人は身近なところに絞り込まれてしまう。
だが、身近ならばなおさら盗んだアルカナコアを利用する方法がない。
世界一目立つ宝石の利用価値なんて、飾って集客につとめるか、所有欲を満たすか……、あるいは僕みたいに恩恵を取り込むか……。
「そうだ、イブとルナにちょっと確認したいことが……あっ!」
身体を起こし、彼女たちを訪ねようかと考えたが、ルナは盗品を返すついでにマリナのところに泊まるらしく、イブはミーニャに茶葉の御礼を渡しに行っている。
そのせいで、普段よりも部屋が広く静かな気がした。
――ガチャ――
そんなことを考えていると、ドアが勢いよく開けられた。
「パパー!!」
部屋に入ってきたのは、鮮やかな桃色の髪をした7歳の少女――サクラ。
僕とイブがザ・デビルの恩恵を使ってランクⅦのコアから生み出してしまったドッペルゲンガーなのだが、産まれてから実の子と思って接してきたので、サクラも僕に懐いてくれている。
「サクラ、どうした?」
サクラは駆け寄ってくると僕めがけてベッドへとダイブしてきた。
「今日はママもいないから、パパと一緒に寝たいの」
大きな瞳で見上げてくるサクラ。この世にこんな可愛い生き物が存在してよいのだろうか?
『クエエエッ』
そんなサクラの頭にカイザーが乗り、翼を広げていた。まるで「自分も混ぜろ」と主張しているように見えた。
「勿論構わないぞ」
可愛い娘と一緒に頼まれて嫌な訳もない。僕は笑顔でサクラを見ると頭を撫でた。
「わーい、ありがとう。パパ」
『クエックエッ!』
サクラとカイザーは布団の下の方から中に潜り込んできた。
僕の胸元からサクラとカイザーが顔を出す。サクラは僕と目が合うと、口を大きく開け幸せそうに笑う。
「今日は何をして遊んでたんだ?」
数日ぶりにサクラと話すので、僕は何をしていたか聞いてみる。
「ダンジョンの中の経過時間を圧縮する実験と、既存のモンスターを掛け合わせてより高度で強力なモンスターを生み出す組み合わせの検討かなぁ」
「うん?」
サクラは口元に手を当てると思い出しながらそう告げる。何だろう、娘が何をしているのかわからない。これが、時代に置いて行かれるというやつか?
僕がサクラの言っている言葉の意味を理解しようと思考を巡らせていると、サクラはさらに話し続けた。
「カー君の産んだ卵の殻を材料にすると、強いのができるんだよー」
『クーエー!』
二人は仲良さそうに笑い合っている。
「……そっかぁ、凄いな」
僕は話について行くのを放棄すると、サクラの頭を撫でるのだった。
「さて、それじゃあ、次の目的について話そうか」
僕はテーブルの上で腕を組むと、イブとルナに話し掛けた。
「次って……『ザ・チャリオット』のアルカナコアの行方を追うのではないのですか?」
イブは青い瞳を僕に向けると疑問を口にした。
「そっちの方はヒルダさんが探ってくれることになっているからね。僕らが彼女以上の情報網を持っているのならともかく、あまりそっちに注力するのは得策じゃないと思うんだ」
国同士や人間同士の駆け引きについては、それほど詳しくない。
ヒルダさんのような目立つ人間が保有しているのならともかく、盗まれた理由もわからず人前に姿を出せないアルカナコアともなると捜索は骨が折れる。
『ザ・チャリオット』に関してはヒルダさんを信じて任せてみるべきだろう。
「それに、他の連中もアルカナダンジョンを狙うかもしれないし」
「何てことですかっ!?」
「えっ? そうなの?」
ルナの言葉に、僕とイブは驚いた。
彼女はコクリと頷くと話の続きをする。
「これまで、アルカナダンジョンは絶対的で絶望的な存在としてこの世界に君臨していた」
最初に攻略されたのが100年前に転移してきた日本人で、次が僕。
アルカナダンジョンは攻略されるまで、一度入れば生存率ほぼゼロの凶悪なダンジョンと世間で噂されていた。
「だけど、エリクの存在がその説を覆してしまった」
「マスターが次々と攻略したことで、挑めば死ぬという説が覆ったのですね?」
イブがルナの言葉の補足をする。
「うん『ザ・スター』が攻略されたことで、私を含む大勢の人間が生存した。それは測らずとも大きな経験を得たし、中には飛躍的成長をした者もいる」
「ルナとかマリナとかタック、だけではないってことだね?」
僕が確認するとルナが頷く。あの時点で頭角を顕していた彼らのことをいっているのだろう。
「でも、それだけで攻略に乗り出しますかね? アルガスさんの例もあるじゃないですか?」
以前、各国の探索者を集めて出現した『ザ・デビル』を攻略しようとしたことがある。あの時は、各国か探索者を募り、共同攻略という名目で参加させるつもりだった。
「でも、あの時は確か帝国を除くとろくな探索者がいなかったのでは?」
共同攻略とは言ったが、当時アルカナダンジョンを攻略できると思っておらず、どの国も主力とは言い難い人員を送ってきたのだ。
「あの時、主力は温存されていた。各国はSランクを討伐できる探索者を保有している」
「それだけなら、今までと変わらないような?」
挑むことはわかったが、それだけで攻略できる程アルカナダンジョンは甘くない。
「付け加えると、各国のSランク冒険者は今、エリクが造った武器を所有している」
その言葉に、僕とイブが固まった。
「そこらの武器とは比べ物にならない切れ味の剣、魔力を増幅する杖、更にいうと魔力回復用の魔石やら、大量の荷物を運べるアイテムボックスなどなど、カジノで得られる目玉商品を保有していればダンジョンの難易度も下がるというもの」
「マスターああああああああああ!」
「イブ、とにかく落ち着こう!!」
涙を流して縋り付いてくるイブを僕は宥める。
「これらを保有する国が数国結集すれば犠牲を払うかもしれないけど攻略できると考えているのは確か」
その後押しとして、ルナと二人で攻略したアルカナダンジョンの存在もあるのだろう。
「そう考えると、いつまでも盗まれたアルカナコアにこだわると、もっと大きな損失を被ることになると思うよ」
ルナの説明に、僕とイブは他のダンジョンを攻略すべく話を始めた。
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