第285話 アルカナコアの行方

「さて、話を聞かせてもらいましょうかね」


 ゴッド・ワールド内にあるエリクの家、そこのリビングにて僕らはヒルダさんと対峙していた。


「くっ……どうせあなたも私に厭らしいことをするのが目的でしょ! あの貴族みたいに!」


 簀巻き状態でふかふかの絨毯に横たわりながら僕を睨みつけてくるヒルダさん。僕は心外とばかりに手に持つ魔導具を弄る。


「まったく、酷い誤解ですよ。僕にはそんなつもりないんですけどね……」


 捕獲のためとはいえ、少し手荒に扱いすぎただろうか?

 妙に敵意が籠った視線を向けられている気がする。


「ただいま戻りました、マスター」


「流石エリク、ちゃんと捕まえている」


 ドアが開き、イブとルナが帰ってきた。彼女たちには僕がヒルダさんを捕えたことは念話で伝えている。


「それで、どうして睨まれているのですか、マスター?」


「やっぱり荒っぽく捕まえたからじゃないかな?」


 イブがヒルダさんの様子をみて僕に質問をしたので、推測を述べる。


「多分、エリクにその魔導具を使われると思ったんじゃ?」


 ルナが僕の手許を指差す。先程、ヒルダさんから取り返した【宣告のネックレス】だ。


「ああ、これを使われると思ったの?」


「そりゃ思うわよ!」


 ヒルダさんの叫び声が聞こえる。確かにこれを使われるとなると怖いかもしれない。ゴ・ウモンの説明通りなら、一回目のペナルティで催淫効果があるんだっけ?


「それは私がマリナに渡しておく」


 ルナは近づくと、僕の手からネックレスを取る。

 じっと魔導具を見つめるルナ。


「ルナさん、まさか一度くらいなら試してみてもとか、隙をついてマスターの首に掛けようなんて企んでませんよね?」


 イブがルナを怪しむように見ている。


「そんなことちょっとしか考えてない。どうせエリクの隙をつくのは無理だし」


「考えているじゃないですか⁉」


 ルナの回答に、イブは大声で突っ込みをいれた。


「……あんたたち、一体何なのよ?」


 突然始まったコントに、ヒルダさんは呆れた様子を見せる。


「まあ、悪いようにはしませんから」


 イブとルナが戻ってきたということもあり、僕は彼女を縛っていた紐を外してやる。


「良いの? スキルを使って逃げるかもしれないわよ?」


「逃げられるなら、最初から捕まってないでしょう?」


 仮に逃げたとして、ここはゴッド・ワールドだ。この中でイブの目を欺くことは神ですら不可能。


「それじゃあ、早速お茶の準備をしますね」


 イブは楽しそうにしながら、四人分のお茶を準備する。


「イブ、お腹空いたからスイーツも欲しい」


 こうして、緊張感のない質問タイムが始まった。




「うん、今日の紅茶も中々美味しい」


「あっ、わかります? ブルマン帝国の皇族しか口にできない特別な紅茶のファーストフラッシュなんですよ。ミーニャさんからもらったんですよ」


 僕らと同じタイミングでアカデミーを卒業したミーニャはブルマン帝国に帰国している。

 マーモ皇帝の統治も安定したらしく、彼の下で皇女として働いているらしいのだが、時々イブが遊びに行っているらしく、二人でお茶を飲みながら会話に花を咲かせているらしい。


 最初の険悪だったころとはえらい違いだ。


「マスターも、こちらのお菓子をどうぞ。特別な蜜を使っていて喉に良い効能があるんです」


「うん、サラリと口の中で溶ける生地と口いっぱいに広がる蜜の甘さが良いね」


「この店も侮れない、今度場所教えて」


 三人揃って、ソファーに背を預けゆったりした時間を過ごしていると……。


「それで、聞きたいことって何!!!」


 僕らの会話を遮るとヒルダさんが怒り出した。


「まあ、そんなに焦らなくてもいいじゃないですか」


「うん、美味しい物を食べる方が優先される」


「徹夜で見張りしていて疲れましたからね」


 もはや仕事は終わっているのだから、少しくらい気を抜いても良いと思っている。


「何を聞かれるかわからないこの状況で、自白剤が入ってるかもしれないこんなお菓子食べられるわけないじゃない!」


「なるほど、その手がありましたか!」


 どうやら、一服盛られていると考えたらしい。確かに考えてみれば、ヒルダさんにとってここは敵地にも等しい。現状を楽しむことはできないだろう。


「じゃあ、本人も乗り気になったところで、早速質問をさせてもらいます。モカ王国のハワード商会から盗んだアルカナコア、返してもらえませんか?」


「えっ?」


 僕らの狙いが意外だったのか、ヒルダさんは冷や水を掛けられたかのように驚いた顔をする。


「イブはアルカナコアさえ手に入れば他はどうでもいいんです、ですが手に入らないとなると何をするかわかりませんよ?」


「どうせ最終的に白状させられることになるのだから、苦痛が少ない間に吐くことをお勧めする」


 イブとルナが物騒なことを言い出した。この二人、根っこが同じだから気が合うんだろうな……。


 僕は二人を見ながらお茶を飲み、ヒルダさんからの回答を待つ。

 尋問が得意ではないので、あえて口を挟まないが、この場で圧力を掛けられれば真実を言うしかないだろう。


 ところが、ヒルダさんは困惑したまま口を開くと、


「盗んだアルカナコアって何? 私そんな物盗んでないわよ?」


「「「えっ?」」」


 


 

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