第282話 魔導具作成【トラップメイカー】
「まったく、マスターに対してあのような態度! 許されませんよ!」
「いちいち気にしていたらきりがないって」
僕のために憤慨してくれるイブをなだめる。
「それに、向こうからしたら僕らを信用できないのは当然だろうし」
遠く離れた国から「ヒルダを捕えにきた」と言ったところで、こちらの事情を話しているわけでもない。
ゴ・ウモンにしてみれば、怪しんでしかるべきだろう。
「いずれにしても、前線を任されたのは良かった」
「そうだね、侮りでもなんでもいいけど、僕らが最初に迎撃にあたれるのは大きいよ」
僕らの目的は、ハワードさんが奪われてしまったアルカナコアを奪い返すことなのだ。
皆で迎撃して捕えたとしても、その場で裁量権を持つのはゴ・ウモンになってしまう。
手を貸したはいいが、話す間もなく連れていかれたり、彼の好きにさせてしまうと情報を得ることができない。
できれば、捕えた状態ですぐに王家に引き渡すかして、マリナの管理下に置くのが理想だろう。
「だけど、どうする? あまり派手な魔法は使えないよ?」
「よりによって、狭い廊下ですからね、奇妙な美術品をどかしてもらえるとありがたいんですけどねぇ……」
僕らが待機させられるのは、館の奥に続く通路の前の方。奥の部屋に進むにはそこを通るしかなく、ゴ・ウモンのいる部屋には窓一つ存在していない。
確実にヒルダと相対することができる反面、美術品が飾られているので火や水の魔法は美術品を駄目にするし、土などでは足止めにすらならない。
「そこが一番厄介なところなんだよね……」
最初の自己紹介で、アカデミー卒の魔道士と言ってあるにもかかわらず、こちらの実力を発揮できないようにしている。
僕らをヒルダが登場した時の鈴の音代わりにするつもりなのだろう。
「とりあえず、折角だからちょっと造ってみるよ……」
僕はそう言うと、魔石を一つ取り出し付与をし始めた。
「エリク、何を造るつもりなの?」
ルナが背中に張り付いてスキンシップを取ってくる。好奇心旺盛な彼女は、何か新しいものがあると目を輝かせて聞いてくる。
「魔法だと対処できなさそうだからね、魔導具を使って即効性を持たせようかと思って」
「えっ、マスターもエッチな魔導具を造るおつもりなのですか?」
「……エリク、最低」
「いやいや、そんな訳ないでしょう!!」
天然で質問するイブと、さりげなく距離をとって半眼で睨むルナ。あの、ゴ・ウモンと一緒にされるのは心外だ。
「これまで取り込んだダンジョンコアの記憶から、壁やドロップアイテムを再現できるだろ?」
「ええ、そのお蔭で様々なダンジョンを造り出したり、機能の一部を他のダンジョンに設置したりしていますからね」
「今回の試みは、ズバリ、ダンジョンの”物を造り出す能力”を付与することなんだ」
「それって、もしかしてその魔導具があれば、誰でもダンジョンを造り出せるってことになる?」
ルナが質問をしてくる。
「流石に、それは無理だと思うよ。ダンジョンの壁一つ造るのにもSPが必要になるわけだし」
「えすぴー?」
初めて聞く単語にルナが首を傾げた。
「うん、ソウルパワーと言って、生き物がダンジョンに滞在していると自然と吸われている力があるんだ。僕のゴッド・ワールドではイブがそれを管理してダンジョン運用に使っているんだよ」
「ちなみに、アスタナ島のカジノやホテルもそうですね。表からは普通のホテルですけど、中身はダンジョンをホテル風にしてあるんですよ」
「……知らなかった」
ここにきて、盛大なネタバレをしたことでルナは驚いて見せた。
「とにかく、ダンジョンの壁一つ、床一つ造るにしてもソウルパワーが必要になるんです」
「なら、エリクが造ろうとしている魔導具は?」
「そうですよマスター。以前お伝えしたじゃないですか、ソウルパワーで造ったモンスターを外に連れ出したところで、補給を得られなければ消えてしまうと」
確かに聞いた覚えがある。
あれは、イブが初めてアルカナコア【スター】の解析を終えて、ダンジョン作成が可能になった時期だったと思う。
魔核を元に召喚したモンスターはダンジョン内でしか生きられず、外に出すと弱体化していずれ消えると。
「うん、僕が造ろうしているのは、ダンジョンのトラップを造る能力を付与した魔導具なんだ」
「トラップですか?」
「うん、ダンジョンのトラップはその特性上、壁や天井、床に設置されることが多い。しかも、イブが取り込んでいるダンジョンコアは各属性ランクⅠからⅦ、更にはアルカナコアまで揃っているから、ほぼすべてのトラップを造ることができるんだ」
「確かにできますけど、それだと結局トラップに嵌めてもすぐに消えてしまうのではないですか?」
一時的なトラップの設置は魔導具でも可能だが、今話したようにソウルパワーを維持できなければトラップは消えてしまう。
「だからこそ、使い勝手がいいのさ」
「どういうこと、エリク?」
「魔法だと、使い終わった後も現象が残るだろ? 火だったら、燃え移ったり、水だったら濡らしたり」
僕の言葉に二人はうなずく。
「だけど、トラップで発生した物は時間が経てば消えてしまう。別に、毒矢やスパイク付きの落とし穴みたいな殺傷力がある罠でなくて、相手の動きが鈍るものでも十分効果を果たせると思うんだよ」
造れる中からピックアップするなら、とりもち・オイル・タライとか……この辺が面白いのではないだろうか?
地面にオイルを撒き滑ったところでとりもちで捕獲し、最後にタライを頭上に落として気絶させる。
流石のヒルダも、貴族の屋敷にそんなトリッキーな罠が用意されているとは考えまい。
「よし、できた」
「はや、もう?」
「また、マスターは妙な物を造りましたね……」
「この魔導具を【トラップメイカー】と名付けよう」
即効性があり、後片付けに困らない悪戯のための魔導具。僕はこれを早く試してみたくて、ヒルダが現れるのを楽しみにするのだった。
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