第272話 アルカナダンジョン【ⅩⅧ】③

 翌朝、僕とルナは目覚めると朝食を摂り、身支度を済ませてダンジョン攻略を再開した。


 悪名高いアルカナダンジョンということで、出てくるモンスターは最低でもダンジョンランクⅤ程度の強さを持っている。


 Cランク冒険者くらいから対応できる強さなのだが、僕とルナにはまったく物足りない。


 ゴッド・ワールドでの訓練の方が激しいくらいだし、これまで攻略してきたアルカナダンジョンの凶悪さを思い返せばぬるいくらいだ。


「エリク、これ見つけたからしまっておいて」


 ときおり、ルナが何かに気付いてはアイテムを拾ってくる。


「預かるよ」


 彼女が手に持っているのは『月の欠片』と呼ばれている鉱石で『星屑』と同様武器屋防具に混ぜることで、高品質な装備を作ることができる。


 ダンジョンの入り口が閉じてしまうことから、簡単に入るわけにもいかず『月の欠片』は『星屑』よりも希少な鉱石なのだが……。


「僕らがこのダンジョンを攻略すれば丸ごと手に入るんだけど?」


 イブの『ゴッド・ワールド』は取り込んだダンジョンコアのダンジョン構造を再現することが可能なのだ。


 以前も『ザ・スター』のコアから構造を真似て星降りダンジョンを再現し『星屑』が手に入るようにしたので、ここでいちいち拾わなくても問題はないのだが……。


「拾える内に拾っておくべき」


 だが、目につくと手に入れたくなるのか、ルナはちょこちょこと見つけては運んできた。


「それにしても、あまりモンスターが強くない」


「いや、多分普通の人間ならとっくに疲労して動けないと思うけど……」


 ルナも大分感覚がマヒしているようだが、ここのモンスターは決して弱くも無ければ遭遇頻度も少なくない。


 大賢者の称号を持つルナだからこそ、出現すると同時に倒せるだけで、一般的な冒険者なら三日ともたないだろう。


「それにしても、どうしてアルカナダンジョンに入ろうと思ったのさ?」


 モンスターとの遭遇も落ち着き、日が経ったのでそろそろ聞いてもいいだろう。


 僕と知り合った当時、ルナとマリナは、将来親が決めた者と結婚しなければならなかった。


 それを破棄する条件としてアルカナダンジョンを制覇し『攻略者』になることを課せられていたのだ。

 以前、彼女たちは僕と一緒にアルカナダンジョン【ⅩⅤ】を制覇しており、その際にそれぞれの親から『攻略者』と認められ、自由に生きることを認められている。


 既に目的を達成しているのに、こうしてアルカナダンジョンに潜るリスクを背負ったのはなぜなのかが気になった。


 僕がじっと見ていると、ルナも見つめ返してくる。

 知り合ってから二年程が経つのだが、こうしてお互いに見つめ合っていても彼女となら気まずくなったり、何か話さなければと焦ったりすることがない。


 勿論女性として魅力がないというわけではないのだが、僕にとってルナは取り繕うことなく自然と一緒にいられる気ごころ知れた相手という感じだからだ。


「イブとの賭けだから」


「イブとの賭け? それってアルカナダンジョンを攻略することが?」


 ポツリと呟くルナに僕は再度質問をする。


「ううん、色々あるけど内容は内緒」


 はぐらかされてしまったが、イブが絡んでいることは間違いないらしい。


 ふと僕は気付くと立ち止まる。


「ん、どうしたのエリク?」


 ここならイブに会話を聞かれることがない。今なら話をすることができるのではないか……。


「実はさ……」


 僕はルナにキリマン聖国でセレーヌさんから聞いたことをそのまま話して聞かせるのだった。





「はぁ、ようやく最奥に辿り着いたな……」


 アルカナダンジョン【ⅩⅧ】に籠ってから六日目、数多のトラップや高難度のモンスターを退けた僕らはダンジョンの中心へと来ていた。


 目の前には広場があり、中央の台座には巨大なダンジョンコア――アルカナコアが鎮座されている。


「さて、ここからがお楽しみだけど、どんなレイドボスが出てくるやら」


 勝手知ったるアルカナダンジョンというわけで、ここまでくればラスボスとの対戦が待っているのは明白だ。


 僕はどんな強敵が現れるのかと考え、アイテムボックスに温存していたオリハルコンの丸太を取り出そうとするのだが……。


「エリク、お願いが一つある」


「今の僕はルナに付き合って潜っている身だからね、何でも叶えるよ」


 一緒に戦ってほしければ戦うし、終った後の打ち上げで美味しい菓子を希望するならそれも作ってあげよう。

 僕がルナの顔を見ると、彼女は思い詰めた表情で杖を握り締め、上目遣いに見ると願い事を口にした。


「ここからは、ルナ一人で――いえ、私一人でやらせて欲しい」

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