第270話 アルカナダンジョン【ⅩⅧ】①

「それでは、扉を開きます」


 騎士の緊張した様子が伝わってくる。目の前には数メートル以上の高さをほこる、重厚な扉があり威圧感を放っている。


 中心には【ⅩⅧ】の刻印がされており、何やら仰々しい雰囲気を漂わせていた。


「うん、はやく開けて」


 ルナは扉から発せられる不穏なオーラに気付いている様子がないのか、普段通りのあっさりした表情を浮かべている。


 周囲にはボロボロに傷ついた兵士や魔道士もいるのだが、そちらに関しては完全にスルーしている。


 僕たちは現在、シルバーロード王国が管理しているアルカナダンジョン【ⅩⅧ】の前に立っている。


 なぜかというと、ルナが僕に求めた一週間の独占権が一緒にダンジョンに潜ることだったからだ。


 とはいえ、一国の王女が潜りたいからと言ってそう簡単に許可が下りるわけがない。

 周囲の人間が猛反対をしたため、ルナが我を通すために立ちふさがった人間を魔法でぶちのめして強引に認めさせたのだ。


『いいな、いいなー。イブも入りたいです』


「だめ、今回、ルナがエリクを独占する」


 おねだりするようなイブの声が頭に響く。本来は僕にしか聞こえないはずなのだが、今回の決定権を握るのがルナだと知っているからか、わざわざ彼女にも聞こえるように念話を飛ばしているらしい。


『ううう、ルナさんのいけず……』


「ん、そういう約束だよ?」


『こんなことになるならしなければよかったです……』


 何やら二人の間でやりとりがされる。この二人が何か企むとき、大抵ろくなことにならないのだが、問い詰めても答えは返ってこないだろう。


「さ、行こう」


 イブが諦めきれずに愚痴をこぼし続けているのだが、ルナは僕の左手を握りしめた。


「ははは、お手柔らかに頼むよ」


 指を絡めるように握り締められる左手からルナのやる気が伝わってくる。


 僕はパーティーで彼女をエスコートするかのように、ルナと歩調を合わせるとアルカナダンジョンに入って行くのだった。




「ひとまず、最初は僕が前衛で敵の様子を見るよ?」


 中に入ると、ただならぬ気配が増大する。このアルカナダンジョンは神々が人間に与えた試練と呼ばれており、どれも超高難度をほこっている。


 これまで僕は都合三度アルカナダンジョンに潜っているのだが、何度入ってもこの独特の気配には慣れない。


 常に何者かの視線を感じ、敵意を向けられているからだ。


「ん。エリクなら安心して任せられる。お願いね」


 ルナはコクリと頷くと、シーソラスの杖を構えた。


 彼女もアルカナダンジョンに潜るのはこれで三度目。これまで何度も死線を乗り越えてきたからか、ゴッド・ワールドでの戦闘経験が自信になっているからか、相変わらずひょうひょうとしているので緊張が見られない。


 —―ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――


 入り口の扉が閉まっていく。ここのアルカナダンジョン【ⅩⅧ】は一度入り口を開くと最低でも7日経たなければ次に開くことが出来ないと聞いていたが、どうやら本当のようだ。


「これで、二人きりになれた。エリク、試してみて」


 ルナの言葉を聞いて、僕はゴッド・ワールドへの入り口を繋げようとするが、開かない。


「どう、イブとの繋がりは?」


 ルナの質問に僕は首を横に振る。何かに妨害されているようで繋ぐことができない。


「一応、アイテムボックスには大量の料理やらポーション類も用意してあるから困ることはないと思うけど」


 ルナこうなることを想定していたようで、事前に僕に準備を頼んでいた。


 現在、僕のアイテムボックスには十分な量の回復アイテムや予備の武器、それに食糧が詰め込んである。


 ルナと二人だけなら一年は持つ量なのだが、一週間後には扉が開くはずなのでそこまで過剰な用意は必要ない。


「それにしても、星降りの夜は出入り自由だったんだけどな……」


「あれは恐らく完全に閉じていなかったから。空を飛べれば出入り可能だったわけだし」


 ルナが推測を述べる。実際、僕は転移魔法でも天井からでも出入りしていた。


「確かにそれはあるな」


 【ザ・デビル】の時にゴッド・ワールドへの繋がりが断たれたことを考えると、アルカナダンジョン同士は干渉しあうということではないだろうか?


「エリク、敵が来たよ」


 そんなことを考えていると、奥の方からモンスターがぞろぞろと現れて始める。

 星降りの夜と同じく、アルカナダンジョン内では常にモンスターが生み出されている。


 シルバーロード王国でもそのことを懸念して、定期的に扉を開いてモンスターを間引いているらしいのだが、今回扉を開いたこともあり気付いたモンスターが押し寄せてきているようだ。


「……わかったよ。間違っても僕に魔法を当てないでくれよな?」


 前にでて剣を抜くと、ルナに忠告する。


「ん、できる限り頑張る!」


「そこは絶対の保証をしてほしいんだけど……」


 彼女の大雑把な性格からして期待はすまい。


 僕は殺到しつつあるモンスターを確認すると、


「『フレアボム』」


 ルナの先制攻撃を確認すると、突進を開始するのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る