第269話 ルナの提案

「さて、それじゃあ色々と聞かせてもらう」


 目に前にはイブとルナが立っており、僕は二人から見下ろされ地面に正座している。


 イブによりクッションを用意してもらっているのだが、普段優しいイブも今日に限っては僕の味方をしてくれるつもりはないようだ。


「それで、アンジェリカとはどこまで進んだの?」


「どこまでって……ちょっとキリマンに一緒に旅行に行っただけで、特に何もなかったです」


「流石マスター。女性に恥を掻かせることにかけては一流です」


「おいっ!」


 イブの言葉に思わず言い返す。


「マスター。イブはマスターがアンジェリカさんと旅行に言ったから怒っているのではないのですよ。ただ、マスターにすべてを捧げているイブに偽物をあてがっていったことに怒っているのです」


「同じく、偽物のエリクは気持ち悪い」


 酷い言いようだ。確かに行き過ぎた点があるのかもしれないが、僕の記憶をトレースしているドッペルゲンガーにそこまで言われると流石にへこむ。


「それで、僕にどうしろというんだ?」


 ここまでばれてしまっている以上、他に選択の余地はない。僕はこの二人の機嫌を伺うべく質問した。


「イブはマスターが反省してくださるなら、これ以上特に何か要求することはありません。強いて言うなら今後は相談して欲しいくらいですね」


 確かに、イブがこれまで僕に異を唱えたことなどない。最初から味方につけた方が良いと今更ながらに後悔をする。


「ルナさんからは何か要望がありますか?」


 自分の提案はなしとばかりに、イブはルナに話をふる。

 ルナはしばらく無表情で僕を眺めていると……。


「アンジェリカばかりずるい。エリクの独占権を一週間で手を打つ」


「えっ? そんなことでいいの?」


 これまでも数日、付き合わされたりすることがあったので、特に無理難題でもないきがする。


「嫌なら、皆にばらす」


「いや、是非その提案をかなえさせてくれ」


 幸いにも他の人間に関しては、ルナとイブの方で収める算段をつけているらしい。


「ん、ならいい」


 そう言うと、ルナは立ち上がった。


「それじゃあ、明日からよろしくお願いします」


 珍しくルナが丁寧に頭を下げると出て行く。僕はその姿に嫌な予感を覚え、もしかすると早まったかもしれないと考えているのだが……。


「さて、マスター。今日からは偽物なんかではなく、マスターの世話を存分にさせていただきます。まずはゴッド・ワールドの運用についてイブと一緒に考えましょう」


 どうやら、僕が休めるのはもうしばらく後になるようだった。





「久しぶりね、エリク君」


 目の前にはルナの母親ことシルバーロード王国のアルテミス女王が玉座へと腰掛けている。


「女王様におきましては御機嫌麗しゅう存じ上げます……」


「そんなに硬くならないで結構ですよ、何せあなたは私たち母娘の恩人でもあるのですから」


「ん。エリクは普段通り振る舞うべき」


「は……はぁ……」


 そうは言われても、謁見の間で他の人間もいるので、あまり不敬な態度をとるのは不味いのではないだろうか?


 周囲にいるこの国の貴族や騎士たちが値踏みするように僕を見ている。


「それで、今日は何やら許可をもらいにきたとルナから聞いているわ。もしかしてルナを娶るという話なのかしら?」


「そっちの許可もくれるの? お母様」


 ルナがそう発言した瞬間、周囲からの圧力が強まった。


 彼女はこの国で宝石姫の二つ名で呼ばれている美姫なので、国民から大人気なのだとか……。


「おい……それはちょっと冗談にしてもここでいうのは不味いだろ?」


 国のトップに対し、王位継承権を持つルナが言うとシャレにならない。


「ごめん、冗談。そのことはおいおい話すということで、今日はお母様に別な用事がある」


「言ってみなさい」


 アルテミス女王が許可をすると、ルナは頷き告げる。


「この国にあるアルカナダンジョンに潜る許可が欲しい。潜るのはルナとエリク」


 その発言に、周囲の人間が一斉に固まるのだった。

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