第265話キリマン聖国⑥

「わ、私ったら本当にどうしようもない誤解をしてしまい申し訳ありませんでした」


「いいっていいって。僕とセレーヌさんも配慮が足りなかったね」


 翌日になり、アンジェリカは朝一番で謝ってきた。


 どうやらセレーヌさんが上手いこと話を通してくれたらしい。


「彼女は僕が恩恵の儀式を受ける時からの知り合いだったから、色々と積もる話があったんだよ」


「そうだったのですね、ですがその……セレーヌさんは聖女ですし……非常に美しい方ですから……」


 言いづらそうにチラチラとこちらを見てくる。


「彼女に関しては色々情けない部分を見られてるし、親身になって相談に乗ってもらったからな、姉がいたらあんな感じじゃないかな」


「なるほど、お姉様ですね。納得しました」


 セレーヌさんは偉大な先輩ということもあってそう言う目で見ることは避けてきたので、今のは僕の正直な感想だ。


「それで、今日はどこか行きたい場所があるんだっけ?」


「は、はいっ! エリク様さえ良ければと思っているのですが……」


「昨日は一日僕の用事に付き合わせちゃったからね、今日はアンジェリカの行きたい場所に付き合うよ」


 もじもじと不安そうな顔をしているアンジェリカに、僕はそう答える。


「はいっ! 是非よろしくお願いします」


 すると、彼女は嬉しそうに笑うと行き先を告げるのだった。




「ここが【クリスタルチャペル】ですわ。キリマン聖国でも高位の役職に就く人間でなければ利用することが出来ないと言われている場所です」


 クリスタルで作られた透明な礼拝堂に空から光が差し込む。

 涼し気な青を透過してくる光は神秘的でアンジェリカの頬を優しく照らしていた。


「エリク様、どうかされましたか?」


 思わず見惚れてしまっているとアンジェリカが不思議な顔をしてこちらを見る。


「いや、綺麗だったからね。映像記録魔道具でも持ってくればよかったなと」


 ゴッド・ワールド内の部屋に置いてあるのだが、接続するとイブにバレる。


「そうですね、ここではキリマン聖国で要職に就く人たちが結婚式を挙げるらしいんですけど、こんな場所で結婚出来たら幸せなんでしょうね」


 うっとりするような表情を浮かべてクリスタルチャペルを見渡す。よほど強い憧れがあるのだろう。


 僕は建物を見渡すと、恐らくゴッド・ワールド内でも再現可能なのではないかと思いいたる。


「大丈夫だよ、アンジェリカ」


「何が大丈夫なのですか。エリク様?」


 まだ確約はできないけど恐らく問題ないはずだ。


「僕が何とかしてあげるから、楽しみにしているといいよ」


「そっ、それって……エリク様が⁉」


 彼女は僕の言わんとすることを察したのか顔を赤くした。


「うん、この設備なら丸ごとゴッド・ワールドで再現できそうだ。好きな人と結婚するときまでに用意するからね」


 満面の笑みを浮かべてそう言う僕に、アンジェリカは……。


「エリク様の……バカ。知りませんからっ!」


 何故か不貞腐れてそっぽを向くのだった。




 それからいくつもの観光名所を僕らは回った。

 キリマン聖国聖都周辺はやたらとカップル向けの名所が多いらしく、行く先々では新婚さんたちが所かまわずイチャイチャしていた。


 お蔭で多少気まずい思いをしたのだが、アンジェリカも満足したようで旅行はおおむね楽しめたと思う。


「それでは、エリクさん。アンジェリカ王女もお元気で」


「ええ、今度は皆を連れてきますのでその時もよろしくお願いしますね」


「非常に有意義な時間を過ごせましたわ」


 見送りに来てくれたセレーヌさんに挨拶をする。アンジェリカにはわからないように一瞬視線が合うと頷いた。


 帰りの魔導列車の中で座席に身体を横たえる。


「いやー、久々にのんびり過ごすことができたよ。誘ってくれてありがとうアンジェリカ」


「こちらこそ、エリク様が一緒ということで両親の説得も簡単でしたし良い旅行でした」


 お互いに笑い合う。だけどアンジェリカはふと表情を変えると、


「ん。どうしたの? アンジェリカ?」


「いえ、これだけ楽しかったからには何やら落とし穴がありそうな気がしまして……」


「ははは、考え過ぎだって。疲れてるんだよきっと。少し休んだらどう?」


「そうですよね、それじゃあ少しだけ休ませてもらいます」


「さて、僕も少し眠ろうかな……」


 戻ってからはイブと話をしなければならないが不安はない。僕は旅の疲れを癒すため目を閉じるのだった。

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