第264話疑惑のハジマリ
セレーヌさんが瞳を僕へと向ける。
最初の【恩恵の儀式】にはじまりデュアルダンジョン、はてはアカデミーの生徒会まで。ずっと優しい笑顔で接してきてくれた彼女の顔が笑っていなかった。
「そ……それは……」
そんな偶然あるわけがない。
前世の記憶を持つ僕がたまたま得た恩恵が【ザ・ワールド】で、たまたまこの世界には神が与えた22の試練が存在している。
過去にネットで読み漁った小説ではこういう因果関係は何かしら繋がっているのがお約束だ。
「どうやらエリクさんもわかってはいたようですね?」
「だ、だけど今までだってイブは僕に良くしてくれていましたよ!」
常に僕の安穏を護るためにゴッド・ワールド内を快適に作り替え、様々な恩恵を与えてくれた。
一緒に強敵と戦ったこともあるし、この世界に転生してから一番長い時間を一緒に過ごしたのだ。
「もちろん私だってイブさんを信じたいですよ? ですが、彼女はこのことを隠していた」
考えたくない事実をセレーヌさんは僕に突き付ける。
「それにしても【ザ・ワールド】が他のアルカナコアを取り込んで【ゴッド・ワールド】ですか……。神の世界……神界。彼女は何をしようとしているんですかね?」
彼女は口元に手を当て想像を働かせている。
「あの、このことはまだ僕らだけの秘密にしておいてもらえないでしょうか?」
「ええ、もちろんです。エリクさん恩恵に関わる話ですし、そもそも、異世界とかタロットとかいう言葉なんて訴えても誰も信じてくれませんからね」
「僕はまだしばらくこのままでいたいです。確かにイブは僕に話していないことがあるとは思います。だけど、彼女は常に僕のことを大切にしてくれた。彼女が一番大事なんです。だから、話をしてくれるまで待ちたいんです」
僕がこの世界に愛着を持つことができるのはイブが存在したからだ。
「エリクさんの意志を尊重します。それでも何かあれば私に相談するんですよ? たとえアカデミーを卒業していても私はエリクさんの先輩なんですから」
「ありがとうございます」
僕は頭を下げるとセレーヌさんお礼を言うのだった。
「それじゃあ、あまり遅い時間にエリクさんの部屋から出るとこを目撃されるよ良からぬ誤解を生みそうなので、私はそろそろ退室いたしますね」
あれからセレーヌさんに他の【タロット】の番号と意味を教わった。
今後何か変化があれば連絡することと、彼女の実家のアルカナコアは厳重に保管してもらうようにお願いしておいた。
「それでは失礼します」
話し合いで熱が籠ったのか彼女は赤い顔をしながらドアを開ける。僕もドアの前まで見送るのだが……。
「あっ……」
ドアを開けるとアンジェリカががいた。
「えっと……。エリク様何してるかなと……思ったんですけど……まさか、セレーヌさんといらっしゃるなんて……」
何かを誤解した様子だ。
「えっと、わ、私ちょっと部屋に戻りますね」
声を掛ける間もなくあっという間に走り去ってしまった。
「ちょ、ちょっとお待ちください。アンジェリカ王女」
セレーヌさんが慌てて追いかけていく。彼女ならアルカナコアの話に触れず上手いこと誤魔化してくれるだろう。
僕はドアを閉めると寄りかかり……。
「すべての鍵は【愚者】が握っている……か」
遠い目をするのだった。
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