第263話キリマン聖国⑤
「どうぞ座って下さい」
「ありがとうございます」
セレーヌさんを部屋へと招待すると僕は向かいのソファーに座るように勧める。
「何か飲みますか?」
宿泊する部屋にはお酒やら果物が置かれている。よほど良い部屋を用意してくれているらしい。
「それでは果実酒でもいただけますか?」
セレーヌさんに言われ、僕は甘い果物の酒を選ぶとグラスに注ぎ彼女に差し出した。
「美味しいですね」
彼女はグラスに口を付けると酒を味わい微笑んだ。
酒に酔ったわけではないのだろうが、なぜか顔が赤い。
「どうしたんですか?」
妙にそわそわし始めるセレーヌさんに問うと、
「その……男性の宿泊部屋を訪ねるのは初めてなので、緊張してしまいまして」
思わず首を傾げてしまう。
「エリクさんはそう言うことはありませんか?」
「ええ、まったくないですけど?」
普段からゴッド・ワールド内でイブやルナにミーニャ、他にもマリナなどとも二人っきりになることがある。
「それはそれで女性として意識されていないようで複雑ですね」
「セレーヌさんは僕にとっては尊敬すべき先輩ですから」
僕がそう言い訳をすると、彼女はためいきを吐いた。
「まあ、今はそれでよしとしましょう」
グラスを置き、僕を見つめてくる。どうやらお酒が回ったことで緊張もほぐれてきたようだ。
「それでは、お話ししますね」
「よろしくお願いします」
彼女は僕をチラリと見ると話し始めた。
「こんなこと信じてもらえるかわからないですけど、私の先祖――アルカナダンジョンの攻略者はこの世界の人間ではありませんでした」
「信じますよ」
「流石に信じられないかとは思いますが……って! えっ?」
「だから信じますよ?」
僕の反応が予想外だったのか彼女は目を丸くする。
「続きをどうぞ」
「はぁ……まあいいです。とにかく私の先祖は異世界からこの世界に転移してきたらしのです。私のこの黒髪は珍しいでしょう? 攻略者たちは皆この髪の色をしていたらしいのです」
初めて会った時から気になってはいた。この世界に来てから黒髪の人間に出会うことはなかったからだ。
「異世界から訪れた人間は恐ろしい潜在能力を持ちこの世界に適応すると言われています。剣を振ればあっという間にマスタークラスに、魔法を覚えれば膨大な威力の魔法を放つ。そしてそれらの能力は子孫にも伝えられます」
セレーヌさんが膨大な魔力を持ち聖女になったのことも先祖と無関係ではないらしい。
「先祖によると、一緒にこの世界を訪れた異世界人は全部で八人だったらしいです」
「その人たちがアルカナダンジョンを攻略したんですよね?」
セレーヌさんの実家のダンジョンコア専門店にアルカナコアが飾られているのを思い出す。あれは攻略者が手に入れたものなのだ。
「ええ、途中で二人の犠牲を出しどうにか攻略したと言われています」
こうして直接犠牲がでたことを告げられて眉根が歪む。元の世界の記憶があるため、完全に他人と切り離すことができないようだ。
「それ以降、彼らはアルカナダンジョンへと挑まなくなりました。あまりにも危険度が高いと判断したからですね」
平和な世界から突如こちらの世界へと来たのだろう。最初は魔法なんか使えるようになったり成長チートで楽しんでいたのかもしれない。だが、仲間が死んだことで冷や水を浴びせられたのだろう。
僕には彼らの気持ちの変化が手に取るようにわかった。
「そして、私の先祖の話になるのですが、アルカナダンジョンを攻略する人間がいたら伝えるように言われた言葉があります」
ようやくの本題に僕はゴクリと唾を飲みこむ。
「御先祖様は言いました『アルカナダンジョンの試練は俺たちの世界の【タロット】になぞらえて作られている』と。意味わかります?」
「そこまで詳しくありませんけど、それなりには……」
僕も調べていてそんな気がしていたのだが、タロットに詳しくなかったので曖昧にしか知ることがなかった。
「私の実家にあるアルカナコアはⅦの刻印がされています。攻略したアルカナダンジョンは【チャリオット】そしてこのコアの名は【ザ・チャリオット】だと伝えられています」
僕はセレーヌさんの言葉に頷く。
「そして、エリクさんが攻略したアルカナダンジョンは二つですね? 一つ目はアスタナ島の【星降りのダンジョン】。もう一つはモカとキリマンを隔てていた山脈に突如現れた【デーモンのダンジョン】」
彼女は険しい目付きで僕を見つめる。
「その二つのコアの名前は何ですか?」
「星降りの方は【ザ・スター】、デーモンの方は【ザ・デビル】ですね」
「アルカナダンジョンから手に入ったコアにはそれぞれ名前があります。それらの刻印は【タロット】の大アルカナと一致している」
僕には知識がないので判断がつかないが、御先祖様の言い伝えをきちんと覚えているのだろう。
彼女はここでふと話を変えてきた。
「さて、ここで一つ。アルカナダンジョンにはそれぞれ名前があり、いずれも【ザ】から始まっています。私はこれと同じ法則を一つ知っているのですが……?」
彼女は透き通った瞳を僕に向けるといよいよ核心に触れてきた。
「エリクさん、あなたの持つ恩恵は【ザ・ワールド】でしたね? これは偶然の一致でしょうか?」
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