第266話 日常生活への復帰①
「パパ、遊んでちょうだい!」
サクラがベッタリと僕にくっついてくる。
キリマン聖国から戻って数日が経つのだが、今のところ誰も僕とアンジェリカが不在だったことに気付いた様子はなかった。
サクラが作ったドッペルゲンガーたちが上手くやってくれたようなので、その御褒美として彼女のわがままを叶えてあげることにした。
「サクラ、マスターは疲れているんですから。あまりわがままを言うのではありませんよ?」
「はーい、ママ」
明るい笑顔を浮かべてイブに返事をする。
僕はそんなイブをじっと観察する。
彼女は相変わらず笑顔を浮かべ、優しい瞳でサクラを見つめている。
その姿は母親と言うには若すぎるので、歳の離れた姉のように映った。
「それよりも、マスター。アスタナ島への要請書類はこのような感じでよろしいでしょうか?」
サクラを抱えるように抱きなおし、イブから書類を受け取り目を通す。
イブにお願いしていたのは、今回の旅行で得たコメに対する支援内容だ。
副議長を通じてキリマン聖国に野菜類を輸出する手筈を整えることにしたのだ。
逆にキリマンからはコメを輸入することで、新たな交易を生み出し、アスタナ島の主食にコメを取り入れるという取り組みになる。
「ありがとう、これで問題ない。副議長に送っておいて」
「了解しました」
イブはそう言うと頭を下げて出て行く。
そんなイブを見送ったサクラは、
「にしししし、ママ全然気付かなかったんだよ」
悪戯が成功したような顔でサクラが耳元で囁いた。
どうやら僕の不在にイブも気付いていなかったらしいのだが、それはそれで少し寂しさを覚えてしまう。
僕は満面の笑みを浮かべながら褒めて欲しそうに目をキラキラ輝かさせているサクラを見る。
「よくやった。偉いぞ」
乱暴に彼女の頭を撫でてやると、彼女は「きゃー」と悲鳴を上げるのだった。
「さて、他のメンバーにもあっておこうかな?」
向こうは毎日僕のドッペルゲンガーに会っていたから久しぶりとはならないが、僕は旅行から戻ったのだから皆の顔を見ておきたい。
とりあえずこの時間なら皆どこにいるのか考えた僕は、一番確率の高そうな場所へと向かった。
「げぇっ! エリクっ!」
「なんだ、そのジャイアントトードを押しつぶしたような呻き声は?」
僕が顔を出したのはゴッド・ワールド内にある遊戯施設。
そこではタックがゴールデンシープのハナコとトルチェを指していた。
「い……いや、あれだ……。べ、別にさぼってたわけじゃないんだからなっ! ただ、ハナコがトルチェを指そうって誘ってくるから……。俺は悪くない」
過剰に怯えた様子を見せるタック。心なしか、全身に傷を負っているようで痛々しい雰囲気だ。
「いや、別にさぼってるとは思わないけど……」
「と、とにかくっ! 今日は休みなんだから。これ以上は勘弁してくれっ!」
あまりにも必死な形相で僕を拒絶する。
「う、うん……。まあゆっくり休むと良いけど、その手は死路だからね?」
焦って打った手は完全に詰みのルートに入る失着で、
『メェ~』
うちのハナコは見逃すはずもなくタックに止めを刺す。
「あああああああああああっ!」
タックの悲鳴を聞きながら、僕は次の部屋へと向かうのだった。
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