第256話キリマン聖国②
目の前には、右手で眉間を抑えながら苦悩しているアンジェリカがいる。
「ははは、そんなことだろうと思ってましたわよ!」などと乱暴な言葉遣いをして荒れている。
「アンジェリカ王女、大丈夫でしょうか?」
セレーヌさんが心配そうに彼女を見る。
「多分、乗り物酔いじゃないかと」
僕が自家製酔い止め薬を渡すと、彼女はそれを受け取った。
「それでは早速案内しますので、こちらの馬車へとお乗りください」
セレーヌさんに促されるままに場所に乗ると、訪問の目的の場所まで案内してもらうのだった。
「そういえば、どちらに向かわれているのですか?」
馬車に揺られながらセレーヌさんとの会話を楽しんでいると、横からアンジェリカが話し掛けてきた。
「エリクさんのリクエストでとある農場に向かっている最中です」
正面に座ったセレーヌさんは質問に答えた。
「はぁ……、農場ですか? でも、エリク様って例のあれで農作物を育ててますわよね?」
眉を寄せ疑わし気な視線を送ってくる。ゴッド・ワールド内に自前の【畑】があるにもかかわらず、キリマンまで来て見学するのが農場ということに疑問を覚えているようだ。
「元々、いつか見てみたいと思ってた場所だったんだ。本当に楽しみにしてたんだよね」
あの味を思い出すだけでも心が躍る。これまでナットウが皆から不当な扱いを受けてきたことを思い出す。
あれはこの食べ物と合わせて初めて真価を発揮するのだ。今回、アンジェリカに旅行に誘われて二つ返事で頷いたのは、これを手に入れる良い機会だと思ったからだったりする。
「エリク様がそこまで楽しみにしているというのは私も楽しみですわ」
僕の笑顔が伝播したのか、アンジェリカもにっこりと微笑み返してきた。
「お二人は仲がよろしいのですね」
セレーヌさんも優しい雰囲気をだし、三人笑顔で目的地まで馬車を走らせるのだった。
「えっ? なに……これ……?」
馬車に乗ること数時間、キリマン聖国の城門をでて南下して目的地に到着した。
「随分と、荒れ果てていますね」
そこには僕が想像していた黄金の稲穂はなく、ただただ荒れた大地があるだけだった。
「ここが、エリク様の見たかった場所なのですか?」
アンジェリカが不思議そうな顔をして周囲を見渡す。無理もない、僕が馬車の中で散々ハードルを上げまくったからだ。
「こんなの……僕が見たかったものじゃない」
僕がこの国を訪れた理由はコメだ。
キリマン聖国が稲作をしているという情報を去年のアスタナ島でセレーヌさんから教えてもらったのだ。
それ日以来、ここを訪れてコメを食べることが夢となっていたのだが…………。
「…………してやる」
「えっ? エリク様どうしたのですか?」
「エリクさん?」
「ぶっ殺してやる! 誰がこの水田をこんな風にしたっ!」
楽しみを奪われた僕は復讐を決意する。この世界に生まれ変わって数年、ようやく待望の食材がすべて揃うと期待していたのにこの仕打ち。
もし天で見ていたのなら必ず罰を下してやった。僕が激怒していると、二人は距離を取り引いた目で見てきた。
「エリクさん、何か良くないモノが憑いているのでは? 浄化の魔法を使いましょうか?」
「いえ、エリク様は食べ物が絡むとわりと周囲が見えなくなりますので、あれが通常です」
何やらひそひそと話しているようだが、今の僕にとってこの惨事を引き起こした人間を粛清する方が先決だ。
「セレーヌさん!」
「は、はいっ!」
「一体どうして、ここの畑はこんなに荒れているんですか!!!」
僕の勢いにおじけづいたのか委縮しているセレーヌさん、申し訳ないが怒りが抑えきれない。
僕はすぐにでも犯人に放つ魔法を頭の中で組み立て用意するのだが……。
「それが、この前山脈に隕石が落ちてきたじゃないですか。ここはわりと山脈寄りの場所なのでその時の衝撃で植えていた苗が飛ばされて、その後土が降り積もってしまったんですよ」
「そっ……そうでしたか……」
彼女の説明に、僕は振り上げた拳を降ろす先を完全に見失ってしまうのだった。
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