第251話 【ザ・デビル】実験中

「コアから出力調整、ドップ君にマスターの力を注入開始します」


 目の前では水溶液に満たされたカプセルにダンジョンコアが入っている。


「了解、注入していくから臨界点に達する前に報告してくれ」


 ここはゴッド・ワールド内。普段、みなに開放している場所と違って、イブと僕しか入ることができない最奥部になる。


「駄目ですマスター、コアに亀裂が入りました。これ以上は注入できません」


「くそっ、また失敗か……」


 イブの声と共に部屋が暗転する。カプセルの中のコアは破壊され、水溶液の中を漂っていた。


「いったい、どうすればいいんだろうな?」


 僕は頬杖を突くと目の前の光景を睨みつけていた。





「これ以上は、コアの等級を上げるしか手はないですね」


 テーブルに置かれた割れたコアを見るとイブはそう言った。


「とはいっても、今回使ったコアはランクⅤのダンジョンから産出したものだよ? あれであんなに脆いとなると他でも同じなんじゃないか?」


「ですから、マスターの力が強すぎるんですよ。アルカナコアクラスでないとマスターの力を受け止めるのは不可能だとイブは言いました」


 イブからの小言を聞きながら、僕は溜息を吐くとソファーへともたれかかる。


「別に良いじゃないですか、マスターのドップ君なんて必要ないと思います。イブが奉仕すべきは今のマスターだけで充分ですし」


 元々乗り気ではなかったのか、イブがそんなことを口にする。


「いや、僕がもう一人いればさ、他のアルカナダンジョン攻略も進められるし、学校の授業とかその他便利かなと思ったんだよ」


 ルナやマリナにタックの修行に加えて、最近ではミーニャさんとの時間まで。


 更には副議長もせっついてくるので忙しさが増しているのだ。


 身体が一つしかない以上、順番に相手をするしかなく、身代わりを用意して楽をしたいと考えるのは当然の思考だった。


「だったら、加減を覚えてくださいな。マーモさんのドップ君を作った時はイブがやりましたけど、マスターは基本おおざっぱすぎるんですよ」


「とはいえ、コントロールの仕方がなぁ」


 そもそも僕の魔力が強すぎるので、精密な作業には向かないのだ。


 イブは、自分の力を完全にコントロールできているのに対し、僕は最低出力が高いため一気にコアに力を注いでしまう。


 結果としてダンジョンコアは壊れる。


「うーん、いっそ二人でやってみますか?」


 イブは確保していた中からランクⅦのダンジョンコアをセットした。


「そうだね、イブが教えてくれればギリギリ壊さない調整もできるかもしれない」


 魔力を注入する宝玉に手をのせると、イブがその上から手を重ねてきた。


「いいですか、イブがまずマスターの魔力を覆いますから。マスターはそれに従ってゆっくりと魔力を注いでください」


 至近距離からイブの声を聞くと僕は頷く。そして目の前のコアにむけて最新の注意を払うと魔力を流し始めた。


「あっ、とてもいい感じです。イブの魔力が経路になって、少しずつマスターの魔力がコアへと注がれていきますよ」


 これまでにない感触だ。さきほどまではすぐに破壊されてしまっていたコアが今回は無事な姿で水溶液の入ったカプセルに浮いて輝いている。


「この調子ならイブが魔力を切っても平気そう……ってマスターに引っ張られて引き出されてしまっています!?」


「なあ、ドッペルゲンガーって当人の魔力を使って全く同じ記憶、肉体を持つ者を創造するんだったよな?」


「ええ、その通りですよ」


 マーモ皇帝の時は、瀕死の彼にコアを握らせ魔力を得た。


 結果としてアルガスさんをだませる精巧な死体を作り上げたのだが…………。


「イブと僕が同時に魔力を流したらどうなるんだ?」


 現在、僕もイブもドッペルゲンガーを作るための恩恵【ザ・デビル】を使っている。


「わ、わかりませんよっ! アルカナコアを解析した時だってそんな使い方説明に出ませんでしたし!」


 焦るイブの様子に僕まで落ち着かなくなってくる。


「と、とにかくイブ。実験は中止だ、これ以上魔力を流さないように止めてくれ!」


「とっくにそうしてますっ! でもマスターに引っ張られてしまって止まらないんですよっ!」


 二人の手は密着しており、どちらからも離すことができない。


「まずいです、もうすぐ【ザ・デビル】が完了します。ドップ君が完成してしまいますよっ!」


 カプセル内が輝き、眩しさで僕らは目を細める。


「い、一体どうなったんだ?」


 光が収まり、状況が確認できるようになる。


 僕らが実験結果を確認すると、カプセルの中には……。


「えっ? こ、これって……」


 イブの驚愕の声が聞こえるのだった。


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