第252話謎の少女

「おっ、エリク。ようやく出てきたな」


 生徒会に顔を出すと、タックが顔を向けてきた。


「いやぁ、ははは。まあね……」


 僕が苦笑いを浮かべるとルナが近付いてきて僕の目を覗き込んでくる。

 

 その透明な瞳は僕の顔を映していて、内面を見透かされているような居心地の悪さを感じた。


「また何かやらかしたの?」


 訂正、どうやら本当に見透かされているらしい。思うにルナは心を読む力を隠しているのではないだろうか?


「失礼な、まるで僕がいつもやらかしてるみたいに言わないで欲しいな」


 僕が抗議をすると、ルナはタックやミーニャと顔を合わせて首を傾げた。


「まあ、大体いつも何かやってますけどね」


 一人無言だったマリナが本を閉じると不当な評価で僕を貶める。日頃から辛い訓練を課していることにたいする反撃だろうか?


「それで、イブさんはいらっしゃらないのですか?」


 メイド服を着たミーニャがお茶を淹れながら話し掛けてきた。彼女は帝国時代に、散々アルガスさんにこき使われたせいかいまだにメイド服を着ている。


 本人に「ドレスにしたら?」と聞いてみたところで「こちらの方がエリク様に奉仕するのによいので」と断られた。


「えっと、イブは今用事で手が離せないというか……」


 僕が冷や汗を垂らしながら、イブが何をしているか思い出す。


 二人の間で、このことは当分秘密にすると決めているからだ。


 ところが、次の瞬間。目の前にゴッド・ワールドの入り口が開いた。


「おっ、噂をすれば早速イブの登場か」


 あの件で何か緊急事態でも発生したのだろうか?


 最奥部に籠ると打ち合わせをしていたため、首を傾げる。僕は喉を鳴らし、イブが出てくるのを待っていると……。


「パパー!」


 何かがゴッド・ワールドから飛び出し、僕へと突進してきた。


「ゴフッ!」


「あっ、こらっ! サクラっ! 勝手に出て行かないのっ!」


 その後ろからはイブが出てきた。彼女は僕に飛びついた者に説教をする。


「ごめんなさい、ママ」


「まったく、仕方ないんですから。外の世界は危険なんですからね、これからは勝手に出て行かないように注意するんですよ?」


「はーい、ごめんなさい」


 桃色の髪をした女の子が僕のお腹にぐりぐりと頭を押し付ける。僕は冷や汗を流しながらもその子の頭を撫でているのだが、周囲の視線の厳しさにとうとう無視することが厳しくなってくる。


「な、なあ……エリク。今その娘、なんて言った?」


 タックが大きく目を見開いてその娘を指差した。


「あ、あははははは、わ、私の聞き間違いでしょうか?」


 ミーニャが目に涙を浮かべながら、トレイを掴んでいる。金属でできたトレイがミシミシと音を立てて歪んでいた。


「い、いくら何でも子供を作るのは早すぎませんかっ!」


 マリナが顔を赤くして立ち上がり、僕とイブを睨みつける。


「この娘、エリクとイブにそっくり?」


 ルナだけは一人冷静に目の前の女の子を観察し続けていた。





「な、なるほどな。新しいコアの恩恵を使っていたら生まれてしまったと」


 あれから、全員に説明をして納得してもらった。


「イブとマスターの魔力を半分ずつ受け継いだ結果、本来の用途とは違う形で恩恵が発動してしまったようです」


「つまりこの娘は、僕でありながらイブでもある。記憶に関しては一般常識しか共有されていないみたいなんだけどね」


 【ザ・デビル】の恩恵を使える人間は本来なら一人きりのはず。だが、僕とイブは同じ力を扱えるためにイレギュラーが発生していしまった。


 そのおかげで生まれたのがこのサクラだ。年齢は六歳くらいで、桃色の髪と青い瞳が特徴的。目元なんかはイブにそっくりだったりするので、見ていると不思議な安心感を覚える。


「それって、完全に二人の子供と同じじゃないですか?」


 ミーニャが真剣な顔で問いかけてくると、


「そうですね、イブ自身不思議なのですが、サクラを見ていると胸が暖かくなるというか。とても幸せを感じております」


 右手で胸に触れたイブは満ち足りた表情を浮かべた。


「マーマ!」


 そんなイブにサクラが抱き着き胸に顔を埋める。その顔は安心しきっており、二人が誰にも切り離せない縁で繋がっていることを周囲に知らしめた。


「ふふふ、サクラは甘えん坊さんですね」


 母性を漂わせサクラの頬を摘まんでいる。彼女の頬は天使のほっぺたなのか極上の柔らかさでいつまで触っていても飽きることがないからな。


 仲睦まじい様子を見せるのだが、みなはその光景をあっけにとられてみていた。


 そこで僕はふと思い出す。なぜイブが約束を破ってこちらに来てしまったのか追求しなければならない。


「そういえば、イブ。サクラを勝手にこっちに連れてくるのはよくないぞ?」


 みなにはもっと後で落ち着いてから知らせると決めていた。にもかかわらずあんな場所に出入り口を繋ぎ、サクラを先に行かせるなどあってはならない。


「そ、それが……。どうやらこの子もイブとマスターと同じ権限を持っているみたいなんですよ」


 サクラの頭を撫でながら、イブは困惑の表情を浮かべる。


「うん、サクラはパパとママの娘だもん。こんなこともできるよ」


「えっ?」


「まじっ?」


 次の瞬間、ゴッド・ワールド内部にダンジョンが生成された。


「なんだ?」


「どうしたの?」


 タックとルナが質問してくるが、ゴッド・ワールド内での出来事なので認識できない。


「今の一瞬でこんなに……。イブだってここまでの制御速度はないのに……」


「もしかして、僕とイブの力を持っているからこんな優秀なことを?」


「えへへへ、凄いでしょ!」


 褒めてとばかりに頭を差し出すサクラに俺たちは驚きを隠せないでいた。

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