第250話帰国

「そ、それじゃあ、国に帰ろうか」


 僕はそう言うと、馬車へと乗り込んだ。


「戻ってからコアの解析もありますし、新しい労働力もありますから忙しくなりそうですね、マスター」


 イブが上機嫌で笑いかけてくる。今回のアルカナダンジョン攻略で新たなアルカナコアに加えて、アスタナ島で運営しているダンジョンを回す労働力まで手に入って満足しているようだ。


「それでは、今後宜しくお願いします。御主人様」


 イブの笑顔がピシリと固まる。


「その、御主人様というのはやめて欲しいんだけど」


「ですが、私をもらい受けていただいた以上、呼び方をはっきりさせないと」


 ミーニャさんは真剣な表情を浮かべると僕にそう言った。


「いや、そんな重たい話じゃないからね。モカ王国に留学している間、僕の元に滞在するって約束だから」


 あれから、マーモ皇帝に頭を下げて頼み込まれてしまった。


 自分はこれからボロボロになった帝国を立て直さなければならない。それには庶子であるミーニャは攻撃の的になってしまうらしい。


 自分の目の光らないところでミーニャが虐げられたり、自分にすり寄ってくる人間がミーニャを娶ろうとしかねない。そんな不安を吐露された。


 それであれば、王族としての作法を学ばせるため、留学させるのが最良と判断したらしい。


 ミーニャさんの希望を確認したところ、彼女も僕の元で学ぶのに異存がないと答えたとか。


 タックやマリナにルナ、アンジェリカもいるし、確かに王族と接する機会は多いだろう。


 そういった計算もあって僕に預けたのだろうが、どうにも彼女の態度が堅苦しいと感じる。


 僕がどうしたものかとミーニャさんを見ていると、


「言っておきますけど、マスターのお世話をするのはイブの役目です。ミーニャさんは王族の振る舞いを学びに行くんですからね」


 イブが身体を寄せてくる。自分の役割ととられまいと牽制しているようだ。


「勿論、そちらも学ぶつもりです。だけど、父と私の命を救って下さった恩返しがしたいのです」


「ま、マスターからも何とか言って下さいよ」


 ミーニャさんの返事を聞いたイブは、涙を浮かべると僕に言った。


「まあ、本人が満足するようにさせてあげようよ」


 せっかく再会した父と離れて異国へ向かう覚悟をしているのだ。成長したいと思っている気持ちを汲んであげるべきだろう。


「ありがとうございます。精一杯奉仕させていただきますね」


 ホッと息を吐くミーニャさん。安心した表情を見せる彼女に僕は言った。


「でも、その御主人様ってのは止めて名前で呼んでよね?」





          ★


『それで、そっちに送った人達はどうですか?』


 エリクから通信が入ると副議長は即座に返事をした。


「ああ、中々優秀な人材だったよ。それにしても、確かに最近人が不足していたけど、急に送ってくるからびっくりしたぞ」


 雇用を増やす予定はあったが、エリクに話を通そうと考えている最中だったので丁度良かった。


『丁度よさそうな人たちだったので、遠慮せずにこき使ってくださいね』


「それは構わないが……」


 何があったのかわからないが死に物狂いで働く新人たちを見て副議長は背筋に汗が流れている。


 エリクが送ったのはアルガスを含む今回の件に加担した人間たちだ。


 マーモ皇帝が死刑にしようとしているところで『だったらうちで預からせてください』と申し出たのだ。


 盗られた武器のマイナス分も支払ってもらっていない。


 アルガスたちには真面目に働かない人間は帝国に帰すと伝えている。

 戻ったところで死刑になるのが確定しているので死に物狂いで働いているわけだ。


「そうだ、近日中に打ち合わせをしたいんだが来られるか?」


『ええ、こっちはちょっと色々ありそうだけど、近いうちに顔出します』


 エリクはそう言うと通信を切った。


「それにしても、あいつを敵に回すってのは本当に恐ろしいことなんだな」


 副議長は必死に働くアルガスをみてそう呟いた。







 


 

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