第240話暗殺
★
「おや、マスター眠ってしまったみたいですね?」
イブはゴッド・ワールド内で忙しくコアを操作しながらエリクとミーニャの行動を視ていた。
「まったく、女性と出かけているというのに寝るなんて……。そんなんだからマスターはいつまでたっても女性の気持ちに気付かないんですよ」
仕えるようになって三年足らず。これまでエリクの周囲には多くの美しい女性がいた。
モカ王国のアンジェリカ王女に聖女セレーヌ。アナスタシア王国のマリナ王女にシルバーロード王国のルナ王女など。
他にも故郷の幼馴染みであったり、アカデミーで告白された回数も含めれば相当な数にのぼる。
なのにエリクは誰とも付き合うことをしなかった。
「今回のミーニャさんも皇帝の血筋ということで強力ですからね。イブの仕事を奪わないのなら候補として有力なんですけど……」
エリクの偽物が上手くやったみたいでこれまでエリクの周りにいた女性よりも深くエリクに嵌っている様子。今もチラチラとエリクの寝顔を見ては初々しい反応をしている。
「ふふふ、あの二人の接近を見て他の王女様がどう動くか楽しみです」
イブは口元に手を当てると考える。
これまでエリクの周りにいたのは引っ込み思案だったり、マイペースだったり。家庭の事情をもっていたりと複雑な女性が多かった。
だが、今回のアルカナダンジョン攻略でその辺の障害はまとめて取り払われたし、今後はイブも動向を観察し続ける必要があると考えた。
「おっと、手が止まっていましたね。急いでこれ片付けないと間に合わないところでした」
ゴッド・ワールド内の空一面に無数の映像が投影されている。イブは帝国の要注意人物の会話をすべて聞きながら、この先どう対処するかの計画を立案していく。
「はやくこれの解析がおわりませんかね。そうしたら――」
イブは慈しむようにそれを撫でると。
「――また一歩完全に近づけるのに」
「すぅーすぅー」
ミーニャの横ではエリク様が目を閉じて穏やかな様子で眠っていた。その安心しきった様子はミーニャの膝の上で眠るメアと同じで、主人とペットは似るものなのかとミーニャは考えていた。
「ごめんなさいね……」
『ブルルッ?』
ミーニャがメアの頭を膝から下ろすと、メアは一瞬目を開けたがすぐに穏やかな寝息を立て始めた。
ミーニャはスカートを捲し上げるとそこに固定してあった短剣を取り出す。先端にはデッドリーポイズンエレメントの毒が塗ってあり、聖女クラスの治癒魔法か超高品質のポーションがなければ解毒ができない。
「あなたさえいなくなれば……」
サイクロプスを御する怪力も、アルカナダンジョンを制する力も関係ない。
どのような英傑も寝ているところを襲われたらひとたまりもないのだ。
「あなたを殺せば皇帝が……父が助かるんです……」
ミーニャは険しい表情をすると両手で短剣を振り上げた。
風が吹く。先程までの暖かい風ではなく、気温が下がってきたのか肌寒い風が。
短剣の先が震える。エリクを殺すという自分の意思に反するように身体が動かない。
「どうして動いてくれないんですかっ!」
ミーニャは叫んだ。ここでエリクを殺すことができれば父の命を救うことができる。
自分は要人を殺した罪で処刑されるだろうが、父さえ生きていてくれればそれで構わない。そう思っているのに……。
「うう…………うぅ……」
ミーニャの目から涙が次々と零れる。その涙はミーニャの頬を地面へと吸い込まれていく。
――カシャンッ!――
手から短剣がスルリと地面に落ちた。
「ふぁ……あれ? 僕寝てた? ってどうしたのさミーニャさん!」
エリクが身体を起こすと目の前には泣いているミーニャの姿が。地面には短剣が転がっていてエリクは咄嗟に状況を把握できない。
「…………さい」
「えっ?」
ミーニャが小さな声で何かを呟いた。エリクはよく聞き取れなかったので聞き返すのだが……。
「……私を殺してください!」
ミーニャは悲痛な顔をすると自分を殺して欲しいとエリクに懇願するのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます