第237話アルガス宰相の企み
★
「一体どういうことだっ!」
灰皿が投げつけられる。ガラスでできた灰皿は地面に当たると砕け散り、灰とガラスを周囲へとまき散らした。
ミーニャはそんなガラス片を片付けようと前かがみになり拾おうとするのだが……。
「うっ!?」
アルガスはかがんだミーニャの髪を掴むと引っ張り上げた。ミーニャの指がガラスで切れ血が出る。
アルガスはそんなの知ったことかとばかりに憎悪を込めるとミーニャに言った。
「私はやつらを皆殺しにして来いと言ったはずだぞ」
ミーニャはアルカナダンジョンに入る際にアルガスから一つの命令を受けていた。それは自分を除く他のメンバーを殺してくること。
元々、アルガスは今回の攻略で成果を得ようとは考えていなかった。
今回のアルカナダンジョンでは最近チョロチョロと周辺国を強化し続けているエリクという存在を抹殺できればよかったのだ。
「全く使えぬやつ。その無駄に育った胸を使って誘惑の一つでもすれば隙ぐらい作れるだろうに」
アルガスの目に好色が浮かぶ。ミーニャはそんなアルガスの視線を眉をピクリとも動かさずに受け止める。
「それにしてもあのソフィアとかいう小娘。もう許さぬぞ。人を小馬鹿にしおって……」
今回のアルカナダンジョン攻略における作戦をぶち壊したのはソフィアの一言によるものが多い。
帝国の調査にも全く引っかからなかった青髪の少女は寄りにもよってエリクと同等の力を持っているようだ。
過去に帝国に現れては商人や一部の貴族とも繋がりを持っている。場合によってはエリク以上に帝国にとっての脅威となりうる人物だった。
「こうなってしまっては仕方ない。後は持ってきた財宝のどれを獲得するかだな。貴様の活躍を盾にすればある程度は得られるが……」
狙うのはやはりアルカナコアだろう。あれは世界中を探しても今のところモカ王国にしかない物だし、所持することで今回の攻略をどこが主導したか内外に知らしめることができる。
オリハルコンやミスリルなどのインゴットも価値は高いのだが、武器に加工したりなど利用するとなると利益に還元するまでに時間がかかる。
話を聞く限りエリクこそが今回の攻略において最大の功労者らしいので、他の攻略者はアルカナコアを狙うのを遠慮するだろう。
「おい、ミーニャよ」
アルガスはアゴに手を当てるとミーニャの顔をまじまじと見た。
皇帝が街の女に産ませた娘だけあって身分を知っている人間は少ない。だが、母親が余程の美人だったのかその容姿を受け継いでおり目を見張る美しさだ。
アルガスは下卑た笑みを浮かべると。
「お前、エリクという小僧に抱かれてこい」
「っ!?」
その言葉にミーニャの瞳が揺れ動いた。
「可能ならそのまま暗殺してくるのだ。もしそれができない場合、奴にアルカナコアを譲るよう言え」
エリクの周囲には綺麗どころが揃っている。マリナやルナは宝石姫の二つ名を持っているし、ソフィアもそれに負けない美しさとあどけなさを持っている。だが、アルガスの見立てではミーニャも負けてはいなかった。
「そ、それは……いや」
ここで初めてミーニャが声を出す。瞳が揺れ動き人形から人間へと表情が変化した。
「私に逆らうというのか? 貴様の父はこのまま薬を与えなければ長くは生きられぬのだぞ!」
その言葉にミーニャは息を飲む。これまでアルガスの命令に耐えてきたのは父の存命を願えばこそ。ミーニャが手を強く握りしめると指の間から血がポタポタと零れる。そして……。
「わかり……まし……た」
そう言うとノロノロと部屋を出て行った。
「ふん、人形が生意気にも逆らいおって」
これまで反応を見せなかったミーニャの態度にアルガスは少し気分を良くする。
嫌がる相手に無理やり命令をした愉悦間を感じたからだ。
「ふっふっふ、ミーニャがエリクを誘惑して成功した時の小娘の反応が楽しみだ」
イブがエリクに寄り添っているのを何度も見ている。アルガスはエリクを奪われて絶望しているイブの表情を想いうかべると不気味な笑みを浮かべるのだった。
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