第236話久々の団欒
「さて、エリクよ。アルカナダンジョン攻略お疲れ様」
「ありがとうございます。アレスさん」
場所を移した僕らは帝国が用意した来賓室に入ると身を落ち着けた。
「カカカ。それにしても相変わらずの常識破りだな。流石の俺たちもあまりの事態に真実を飲み込むのに覚悟がいったぞ」
そのわりには皆わりとすぐに味方についてくれたような気がする。お蔭でアルガス宰相さんが泡を食っているように見えたのだが……。
「ルナ。よくやりましたね。私はあなたを誇りに思うわよ」
「マリナも良くやったな」
「うんママ。私頑張ったよ」
「いえ、お父様。まだ至らぬ点がありますので」
アルテミスさんとアーサーさんがマリナとルナを労う。そして二人は視線を合わせて頷くと。
「これにて俺たちアナスタシア王国と」
「シルバーロード王国は」
「「ルナ王女とマリナ王女の婚姻における自由を認めることにする」」
突然の宣言にその場の全員が注目する。
マリナとルナがあっけにとられていると……。
「おめでとうございます。マリナさん、ルナさん。これで政治的な結婚を強いられることはなくなりましたね」
幻惑による変装を解いた状態のイブが喜びながら二人へと抱き着いた。
「本当に。認めてくれるの?」
「ええ、あなたは難関ダンジョンと言われるアルカナダンジョンに二度も入って生還しました。これは王家の実績としては類をみないものです」
アルテミスさんはルナの頭を優しく撫でるとそう言った。
「ありがとうママ」
ルナはそんなアルテミスさんの胸に顔を埋めると気持ちよさそうに表情を和らげた。
「どうしたんだマリナ。嬉しくないのか?」
ところが、マリナは複雑そうな表情をしている。
「実は、今回のアルカナダンジョンですが、ボスはエリクが入って速攻で倒したんです。ルナや私がしたことはダンジョンを進み、襲ってきたデーモンを倒しただけ。とても胸を張って攻略したなどと言えません」
「つまり、まだ満足していないと?」
アーサーさんの言葉にマリナは頷く。せっかく願わぬ婚姻を強いられることを回避できるというのに生真面目というか。僕は溜息を吐くと言った。
「いや、僕は最終部屋でパイを作ってただけだし、ここにいる皆が頑張ってないなんておかしいでしょう」
デーモンロードを倒したのだってたまたま目の前に現れたからだ。
確かにそれなりに強いとは思うのだが、僕を舐めていたのか目の前で違う魔法を使っていたので【神殿】を【増幅】して効果を本来の10倍まで高めて得た加護を使い、初級のファイアを【増幅】してはなったところものすごい勢いで吹き飛んでいき倒れたのだ。
あんな隙だらけな姿をしていたなら僕じゃなくてもタックとマリナとルナ。それにミーニャさんを加えればギリギリ勝てなくもない気がする。
「戦わなかったのは結果論でしょう。そもそも実力が足りてなかったらダンジョンの最奥の部屋に到着前に死んでいるよ。だから到着できた時点で攻略できる実力はあったはずだし」
「だけど……」
未だ納得いかないのか困惑した表情を見せるマリナに僕は近づくと。
「まだ納得できないというなら僕とくればいい。マリナだったら仲間として頼りにするし、なんならボスとタイマンだってさせてあげるさ」
別にアルカナダンジョン攻略は今回限りの話ではない。
仕掛けの関係で、僕とイブだけではクリアできないダンジョンもいくつか存在しているのだ。
そんな時に臨時でメンバーを募るぐらいなら気ごころ知れたマリナを仲間にした方が良いに決まっている。
迷っていたマリナだったが、
「お父様。婚姻の自由については謹んで受け取らせて頂きます。ですが、私はまだ修業中の身。これからもエリクとともに行動したいと考えております」
「ああ、好きにしなさい」
アーサーさんはマリナを見守ることに決めたようだ。国王としてではなく父親として優しい目でマリナをみていた。
「私も行く」
突然ルナが宣言をしてくる。
「あなたという娘は……。でもそうね、下手に国に戻ってきたとしても持て余しそうだから許可します」
「アルテミスさん。僕も平穏は欲しいんですけど?」
ルナみたいな爆弾娘をどうどうと押し付けてくるアルテミスさんに僕は苦情を入れる。
「平気だよエリク」
いつの間にかルナが近寄ってきて僕の袖をつかんでいた。
「その心は?」
僕はなぜ平気と判断したのかルナに問いかけるのだが……。
「エリクの方が私の何倍もやらかすから」
「「「「「「「たしかに!」」」」」」」
その場の全員が一斉に同意するのだった。……不本意だ。
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