第235話アルカナダンジョン【ⅩⅤ】攻略報告

「こ、この度はアルカナダンジョンより無事帰還したということで何よりですな」


 目の前ではアルガス宰相さんが頬を引きつらせながら口上を述べている。

 ここは帝城内にある会議室だ。正面の席には宰相とその両側にはモカ王国・アナスタシア王国・シルバーロード王国・魔国アトラスそれぞれの代表——つまりタック達の親が座っており、僕らへと注目している。


「勿体なきお言葉ありがとうございます。僕らが無事に戻ってこられたのも一重に宰相様のご厚意があればこそと思っておりますゆえ」


 僕のその言葉でアルガス宰相さんの視線が僕の後ろに向けられる。

 そこにはパリッとしたメイド服に身を包み、凛とした態度で傅いているミーニャの姿があった。


 既に暗殺を企てていたことはミーニャ本人から聞いて知っており、今のは皮肉のつもりだったのだが、探るようなアルガス宰相さんの視線を見て今はこれ以上はやめておくことにする。


「それで、こうして戻ってきたというのはどういうことかな? アルカナダンジョン攻略にさいし、やはり人手が足りず助力を申し出てきたとか?」


 最重要事項だったので、僕らは真っ先に『アルカナダンジョン攻略』の知らせを届けている。それだというのにこうして確認をしてくるということは、アルガス宰相は僕らが嘘を言っていると考えているのだろう。


「いえ、それには及びません。入城の際に兵士さんにも伝えましたが、アルカナダンジョンは既に攻略してきましたので」


「馬鹿なことをっ! あの悪名高いアルカナダンジョンだぞっ! 過去の攻略者ですら仲間の命を犠牲にしなければ成し得なかったのだ。それをこの短期間で犠牲もなしに成し遂げるなんぞ誰が信じるかっ!」


 アルガス宰相さんは怒鳴りつけると周囲を見渡した。


 右側にモカ王国のアレスさんと魔国アトラスのバチルスさん。

 左側にアナスタシア王国のアーサーさんとシルバーロード王国のアルテミスさん。

 いずれも目を閉じ険しい表情をしている。


「見ろっ! 各国の王も貴様の嘘に苦い顔をしているではないかっ!」


 興奮する様子のアルガス宰相さんに、アレスさんが口を開く。


「宰相殿よ。俺は別に嘘だと思ってはおらぬぞ?」


「ええ、我が娘なら当然と思っているわよ」


「ああ、全く大した娘だ」


「カカカ、子供の成長ってのはどうにも嬉しいもんだよな」


 自分の味方だと思っていた各国の王の態度に梯子を外された宰相さんは……。


「どうしてなのですっ! 常識で考えるならこやつが嘘を言っているのは明白。それとも我が子可愛さにここに政治を持ち込まれるおつもりか?」


 要は箔付けというやつだ。

 ただ腕の立つ王族の跡取りではなく、アルカナダンジョンを攻略したという付加価値を付けることで自国がいかに優れた人材を要しているかアピールする。


 そのために茶番に付き合っている。アルガス宰相さんはそう考えた。なので僕は……。


「はい。これが証拠のアルカナダンジョンコアとその場にあった財宝です」


 ゴッド・ワールドから取り出した戦利品を並べてみせる。


「なっ……こっ……」


 口をパクパクさせるアルガス宰相さん。彼は顔を青くして汗を掻くと僕が積み上げた財宝とアルカナコアを見るのだが……。


「さすがは将来有望な探索者たち、見事アルカナダンジョンを攻略されたのですな」


 突然笑顔になり態度をひるがえすアルガス宰相さん。その笑顔は元の世界でも見たことがある。自分の利益を優先していた会社の役員がよくこんな顔で笑っていた。


「エリク殿もソフィア殿も、他の王族の方々も疲れているかと思います。そちらの財宝は預かりますので、分配に関しては鑑定後に後日お話しするということでいかがでしょうかな?」


 財宝をアルカナダンジョン攻略の成果として見せたことで方向転換をしたらしい。

 まだアルカナダンジョン攻略に懐疑的だろうに、実利を前にして掌を返すその態度にはあきれるばかりだ。


「そうだな、攻略パーティーも開かねばならないし」


「私もそれで構わないわよ。娘を労ってあげたいしね」


 アーサーさんとアルテミスさんの視線がマリナとルナへと向く。彼女たちと一刻も早く話をしたいのだろう。


「んー。でも、宰相さん。ソフィアたちが取ってきた財宝を預かるのはいいけど懐にいれないでくださいね?」


 なにせ帝国の人間はアスタナ島の積荷を奪った前科がある。

 それを知っているのはイブと僕だけなのだが、こう言っておけば牽制になるだろう。


「ははは、帝国の威信にかけてそのようなことはしませんとも」


 冷や汗が流れている。どうやら一つ二つパクっても気付かれないと思っていたらしい。


「ちなみに目録を作ってありますので、仮に紛失していた場合はすぐに発覚しますからね」


 僕も馬鹿ではないので手癖が悪い人間相手には手を打っておく。


「この目録は……魔王バチルス様にお預けしておきます。分け前の話し合いまでお持ちいただけますか?」


 一番近くに座っていたのがバチルスさんなので預けておくことにする。

 アルガス宰相さんに渡したら目録自体が紛失しかねないからね。


「それじゃあ、いったん解散ですね。宰相さん、ちゃんと財宝守ってくださいね」


 イブはすっきりした様子でアルガス宰相さんをからかうと身をひるがえして出ていくのだった。

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