第234話アルガス宰相のティータイム
「くっくっく、ようやくあのミーニャを城から出すことに成功した」
アルガスは不気味な笑みを浮かべると人目を盗んで城を歩いている。
その手には紫色の液体が入った小瓶が握られている。
「今のうちに追加の毒を飲ませておかねばならぬからな」
アルガスが手に持っているのは暗殺者ギルドの人間が調合した毒物だ。
風邪のような症状が出るのだが、徐々に衰弱していき死に至る。余程の治癒士でも見破ることができず、回復させる薬も存在していない。
流石にミーニャが滞在している状況では皇帝に薬を盛るわけにもいかず隙を伺っていたのだ。
「それにしても誤算だったのはあ奴らの強さよ。まさか周辺諸国がそこまで力をつけてきているとはな……」
タックやマリナにルナ。それぞれの国の王族はSランクモンスターを倒せる程度まで実力を身に着けていた。
更にキリマン聖国では去年見いだされた聖女が力を伸ばしていると聞くし、徐々にではあるが帝国との差を縮めている。
「それもこれもすべてはあ奴の存在のせい」
周辺の国が急に国力を増大させれば流石に気付く。
アルガスは密偵に調査をさせて、各国に影響を与えていた人物を割り出した。
「能力の全貌は掴めなかったが、高い生産系スキルを持っているようだ。恐らくだが、自分で作った魔法具や武器などを使うことで戦闘もある程度できるように見せているのだろう」
先日の試験の際、ギガンテスと戦っていたが実際に倒したのはイブの方。
エリクはギガンテスの動きを止めるために棍棒を受け止めたのだが。
「物理攻撃に対する防壁を張る魔法具で受け止めたふりをしたのだろう。それならば問題はないはず」
アルガスは思案すると、自分の作戦が上手くいくと考えた。
「所詮は若造。ミーニャは愛想はないがあの見た目だからな。誘惑すれば骨抜きになるだろう」
皇帝を人質にしている以上、実の娘であるミーニャは逆らえない。
アルガスはミーニャに他の攻略者の抹殺を命じていたのだ。
実際、ミーニャの力はタックやマリナにルナと遜色のないレベルぐらいはある。
本人の資質もそうだが、モンスターボックスを使った訓練をそれこそ命を削るぐらいにしていたからだ。
「あとは数週間待つだけだ」
そうすればミーニャはアルカナダンジョンの財宝とエリクの訃報を持って帰ってくるに違いない。
「奴さえいなくなればこれ以上おかしなことにはならぬ」
端を欲した人物を消せば周辺諸国の状態も元に戻るだろう。すべては自分の掌の上にある。
「さて、皇帝陛下に毒を飲ませたあとは優雅にティータイムでも楽しむとするか」
アルガスは余裕の笑みを浮かべて歩いていると……。
「あ、アルガス宰相! こちらにおられたのですねっ!」
「なんだ騒々しいっ!」
一人の兵士が息を切らせて駆け寄ってくる。
「そっ、それが……」
この兵士はアルガスの子飼で、城内で不穏分子が動くようなら報告するように伝えているのだ。
「まったくあわただしい奴よ。それでどうした? 先日の探索者試験の結果を見た帝国貴族が謀反でも企てたか?」
計算外の失態をみせたことでアルガスを侮る勢力が増長することは読んでいた。慌てようとタイミングからそれだろうと考えたのだが……。
「それなら既に手は打ってある。私はゆっくりとお茶でも飲みながら朗報を待つつもりだ」
つまらなそうに吐き捨てるアルガスに……。
「そ、それが……」
兵士が言い辛そうに言葉を濁すのをみたアルガスは眉を寄せ不機嫌そうな顔をした。
「なんだ? 他にあるのか?」
兵士は決心するとアルガスに言った。
「アルカナダンジョン攻略パーティーが戻ってきました」
「ば、ばばば、馬鹿なっ! 早過ぎるぞっ!?」
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