第232話アルカナダンジョン【悪魔】⑪
「ここで僕を殺す? 随分と大きくでたものだね」
イブの言葉を聞いたエリクは笑みを浮かべた。
「一つ教えておいてあげるけど、このダンジョン仕掛けは『気が付けば本物と偽物が入れ替わっている』というものなんだ」
強制転移でパーティーをバラバラにすることが第一段階。大抵のパーティーはばらけてしまった後遭遇するアークデーモンやグレーターデーモンに抗うことが出来ず各個撃破されてしまう。
だが、稀にそれを乗り越える程の精鋭が存在するのだが……。
「入れ替わる人物は実は適当に選ばれるわけじゃないんだ。その場でもっとも強い人物を選んで入れ替わっているんだよ」
最強の人物の能力をコピーすればそれ自体が最強だ。
そもそも一番強い人物がパーティーの指揮をとることが多いので、その人物と入れ替わられてしまうとパーティーそのものを乗っ取られるに等しい。
「つまるところ、君たちでは僕には勝てないってことだ」
最強をコピーしたのだから負けるはずがない。エリクはそう根拠つけた。
「御託はそれだけですか?」
――ギイーーーーーーンッ!!!――
金属がこすり合わさる音が響き渡った。
「よくもまあ、親しい人間に向かって遠慮なく斬りかかってくるもんだね」
イブの不意打ちを受け止めたエリクは余裕を取り戻すと笑みを浮かべた。
「こうして剣を重ねればわかります。あなたはマスターのすべてをコピーできていません」
至近距離でにらみ合いながら二人は剣を押し合った。
「何を言っている!」
エリクは剣を跳ね上げるとバックステップをして距離をとる。そして……。
「現にこうして剣を打ちあっているだろう。これが能力のコピーでなくて何だというんだ?」
目にもとまらぬ斬撃がイブを襲い掛かる。タックやマリナにミーニャの目では追いきれない速度だ。
エリクから繰り出されるその斬撃をイブは全て自分の剣ではじき返すと……。
「もしあなたがマスターの力をコピーしたというのなら、ゴッド・ワールドの力を使うはずです。【神殿】や【増幅】など、それらを使えばイブを圧倒できるはずです」
「しつこいねっ! こいつにそんな力があるわけないだろっ! 僕はエリクだ。その力は全てコピーしている。だから負けるはずがないんだっ!」
エリクは次第に焦りを浮かべ始めた。
目の前にいるイブは自分と互角の……いや、それ以上の剣を振るっている上まだ余力を残している。
――キンッ――
「あっ!」
エリクの剣が弾かれると地面を転がっていく。転がった剣はタックによって回収されてしまい、エリクは攻撃の手立てを失う。
「はぁはぁはぁはぁ……くそっ!」
「ここまでですね、偽物!」
喉元に剣を突き付けられたエリクは息を切らすと舌打ちをした。
「あーあ、負けだ負けだ! どうやら確かに能力を完璧にコピーできなかったようだ。何らかのトラブルだろうね。多分デーモンロード様が途中で抵抗するエリクを殺したんだろう」
自分の身に全ての力が宿らなかった理由をエリクはそう結論つける。
「マスターの元に案内しなさい!」
聞く耳を持たないのか、イブはエリクの首筋に剣を突き付ける。わずかに剣が食い込み血が流れた。
「僕を倒したらデーモンロード様の部屋への入り口が解放されるんだ。あとは好きにするといいさ」
エリクはそう答えると…………。
「イブ離れてっ!」
「えっ?」
ルナが警告すると同時にイブは飛びのいた。次の瞬間……。
――ドォーーーーーーン!!――
エリクは自爆すると爆風が広がった。
「ケホッケホッ。まさか自爆するとは思わなかったです」
避難が間に合わなかったイブは爆風から完全に逃げられなかった。
「偽エリク、随分強かった」
「あれでマスターの力の8割ですね。完全にコピーされていたらイブでも厳しかったです」
エリクが全力を出せる相手は少ない。マリナやタックの特訓でも全力をだすことはできないのだ。
唯一イブだけがその力について行けるのだが、エリクはイブを相手に本気で戦おうとしないので、これまでで一番の戦いをイブは経験した。
「あいつが死んだことでどうやらデーモンロードとやらへの道ができたみたいだな」
先程まで反応していなかった魔法陣が輝き始めている。
これに乗ることでこのアルカナダンジョンのボスであるデーモンロードの場所まで行けるのだろう。
「次はアルカナダンジョンのボスです。決して楽な相手ではないでしょう」
先程の戦いに入り込む隙を見つけられなかったマリナ。表情を険しくすると魔法陣を睨みつけた。
「だけど行くしかない」
「そうですね、そこにマスターがいるはずですから」
ルナの言葉を聞いてイブは首を縦に振った。
「えっと……あの……」
戸惑いを浮かべるミーニャ。彼女だけは事態の進行の速さについてこれていなかった。
「ここまで来たら覚悟を決めて下さい。たとえデーモンロードがどれだけ強敵でも、イブはマスターをすくわなければなりません。皆さんの力を借りても足りないかもしれないです」
「安心しろ。俺だってエリクに鍛えてもらったんだ」
「私たちは仲間です。エリクをきっと助け出しますよ」
「皆でエリクを助けにいこ!」
気合は十分。皆で魔法陣に乗ると違う部屋へと転移した。
「ここは……先程までとは別な部屋ですね」
マリナが周囲を見渡す。
「どこから仕掛けてくるかわかりません。油断しないように」
イブがそう警告するのだが…………。
奥から影が動きゆっくりとイブたちに近寄ってくる。すると…………。
「あれ、皆きたんだね。ちょうどパイを焼いたんだけど食べる?」
「えり……く?」
そこにはエプロン姿で焼き立てのパイを持つエリクの姿あるのだった。
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