第230話アルカナダンジョン【悪魔】⑨
「それで、君たちはどうするつもり?」
エリクは皆に振り返ると真剣な表情をする。
「どうもこうも裏切者がいるなら排除するべきだろうがよ?」
タックの答えにミーニャは肩を震わせる。
この中で自分だけ何の繋がりもない外部の人間だ。
更にいうなら裏切者という言葉も間違っていないのだ。自分は宰相から「奴らを出し抜いてアルカナダンジョンを攻略してこい」と言われている。
氷のような冷静さが戻ってくる。あの日、全てを失った時からミーニャは笑わなくなった。毎日苛烈といえる特訓を繰り返し、帝国最強の剣となり実力を周囲に示してきたのだ。それもこれもすべては……。
ミーニャの気配が変わったことをその場の全員が感じ取る。
緊張が高まり、世界最高クラスの人間たちが戦意を高めていくのだが……。
「落ち着こうよ皆。まだミーニャが裏切者とは限らないだろ? 僕はこの数日ミーニャと一緒に過ごしたんだ。もしミーニャが裏切者なら僕がこうして無事な訳がない」
「エ、エリク様……」
皆を説得するエリクの横顔がミーニャの視界に飛び込んでくる。自分の無実を必死に仲間に説くその仕草一つ一つから目が離せない。
これまでは、見ていると心の中がざわつき落ち着かないので見ないようにしていたのだが、今はそのざわつきすらも心地よいと感じる。
これ以上踏み込むと戻れない。ミーニャの内心がそう警鐘を鳴らすのだが、その警告とは裏腹に視線はエリクを追い続けた。
「あなたが何と言おうと私たちの中で裏切者は既に確定しているわ。実力で排除する覚悟もできているのよ」
マリナの鋭い視線にミーニャですら身震いをする。単純な実力でミーニャはマリナに負けるつもりはない。だが、この追い詰められたような必死さは…………。
一触即発の雰囲気に、エリクはミーニャを抱き寄せる。
「ふぇっ!?」
突然の行動に驚き声をあげて顔を真っ赤にするミーニャ。エリクはその場の全員に堂々と言い放った。
「僕はミーニャを信じている!」
その瞬間、ミーニャの中で堰き止めていたものが崩壊した。
「ミーニャ。そいつから離れて」
ルナが有無を言わさぬ迫力で杖を2人へと向ける。その瞳は普段のルナからは考えられないほどの敵意をみせている。
その場を囲む4人。いくらエリクでも勝てるはずがない。ミーニャはエリクの腕をそっと外すと……。
「もういいですエリク様」
「えっ?」
エリクの驚いた顔を至近距離から見るミーニャ。
彼女は満足した笑みを浮かべると。
「皆さんの言う通りです。私は宰相よりあなた方を排除するよう命令を受けていました」
「ど、どうして……そんなことを?」
エリクは傷ついた表情を浮かべた。無理もない、これまで数日の間に距離を詰め仲良くしてきた少女がまさかの裏切者だったのだから。
「私は、皇帝の娘です」
「な、なんですって!?」
その場の全員に動揺が広がる。
「現在、父は原因不明の病に侵されております。そしてそれを延命できる薬を持つのは宰相のみ。私は父の命を握られているので宰相の命令に逆らうことはできません」
このことは宰相によって伏せられている。皇帝は塔へと幽閉されており、ミーニャは姫だとわからぬようにメイド服に身をやつし姿を変えさせられていた。
「このまま何も成せずにダンジョンを出た時、私に待っているのは絶望でしょう」
父の死かあるいは慰み者になる未来か。いずれにせよ宰相の処分がないということはないだろう。ミーニャは抵抗する力を失い頭を落とした。だが……。
「皆! 彼女は騙されていただけなんだっ! 抗うことができずにもがき苦しむ。それは罪なのか? 弱いことが罪だと本気で思っているのか?」
裏切者の自分にすら優しい声を掛けてくれる。だが、他の人間は自分を許してはくれないだろう。ミーニャはただエリクの優しさに救われ涙を流すのだが……。
「弱いことが罪だぁ? そんなのは罪じゃねえ。俺だって前のアルカナダンジョンでそれを知った」
「そうですね。現在、決められた未来に向かって抗っている私たちもミーニャさんの境遇には同情します」
「大丈夫。きっとやり直せるよ」
「えっ?」
皆から掛けられる優しい言葉でミーニャは顔を上げる。その全員がミーニャに対して敵意を向けていなかった。
「あ、ありがとう。ございます」
エリクの必死の説得が通じた。ミーニャは涙を流す。
「良かった、皆わかってくれたんだね!」
エリクは嬉しそうな声を出すと皆に笑顔を向けた。
問題は解決した、あとはどうやってアルカナダンジョンを攻略するか。そんな雰囲気が流れそうになる中……。
「ええ、ミーニャさんは救うべきと判断しました」
イブがミーニャを立ち上がらせ皆のところへと連れていく。そしてルナにミーニャを預けると。
「あとは裏切者であるマスター。あなたを倒すだけですね」
そういうとこれまで見たことのない殺意をエリクに向けるのだった。
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