第229話アルカナダンジョン【悪魔】⑧

「ミーニャ、大丈夫?」


「ええ……何とか平気です」


 あれから何日が過ぎ、エリクとミーニャはダンジョンを奥へと進んでいた。


 途中、アークデーモンを含むデーモン軍団に遭遇した時は死ぬかと思ったミーニャだったがエリクが身体を張って守ってくれたおかげでこうして無事な姿でいることができた。


「疲れたら早く言うんだよ? 万が一ミーニャに何かあったら困るからさ」


 エリクは心配そうな表情でミーニャを覗き込む。


「だ、大丈夫ですからっ!」


 するとミーニャは顔を逸らしてしまった。


「そう? 顔が赤いけど熱とかない?」


 そうって額に手を伸ばしてくるエリクだが……。


「ち、近寄らないでくださいっ!」


 ミーニャは慌てて距離をとった。


「あっ、ごめんね」


 エリクはそう言うと乾いた笑みをみせた。


「べ、別に嫌だったわけじゃないです。ただ……」


 ここ数日、自分たちは水浴びをしていない。


「ただ?」


 エリクに臭いと思われたくない。そんな考えで距離をとったのだが、それを説明する気にはならない。


「もうそろそろダンジョンの最奥部に辿り着いてもいい頃だと思います。先に行きましょう!」


 そう言って前をいくミーニャ。彼女の耳は真っ赤に染まっていた。




「おっ、扉があるね」


 これまでと違い、重苦しい巨大な扉が目の前にある。

 途中の道もしばらく前からしっかりとした作りになっており、何よりモンスターが出なくなった。


「い、いよいよボス部屋でしょうか?」


 ミーニャは胸に手を当てると緊張した様子を見せる。

 たとえ常識を打ち破るような強さを持っているとはいえ、中身は年相応の女の子なのだ。普段は気丈な振る舞いを見せていたのだが、このダンジョンに籠る間に段々とか弱い姿をエリクに見せるようになった。


「安心してミーニャ。何があっても僕が守ってあげるから」


 そんなミーニャの肩にエリクの手が触れる。


「エリク様」


 ミーニャはエリクの手に自分の手を重ねると、安心したような表情を見せた。


「それじゃあ、扉を開けるよ」


「はい」


 エリクの後ろに立ち、何が起きても良いように前を向くと、扉が開き中へと入って行くのだった。





「よお。遅かったじゃねえか」


 タックは入ってきた二人にたいし探るような視線を向ける。


「やあタック。どうやらお互いに無事だったみたいだね。良かったよ」


 そんなタックにエリクは笑みを浮かべると労いの言葉を掛けた。


「あなたはミーニャさんと一緒だったのですね?」


 マリナの質問に。


「ええ、エリク様にはここまで良くしてもらいましたので」


 ミーニャはマリナの前に立つと非難するような視線を向けた。


「それで、皆はいつからここにいるの? もしかして僕らを待っていたとか?」


 マリナとミーニャの間に一瞬走った火花に気付いていないのか、エリクが質問をすると……。


「ええ、イブたちはあなたたちを待っていたんです」


 イブが前にでるとそう答える。


「それってどういう意味? ここってボス部屋だよね? もうボスは倒しちゃったのかな?」


 あきらかにこれまでと違う空間。壁や床もしっかりしており、壁の近くには巨大な魔法陣が一つあるのだが、現在は輝きを失っている。


「そのことならあれを読めば理解できるとおもう」


 ルナは魔法陣近くの壁を杖で示した。


「なんだかわからないけど了解した」


 エリクはミーニャを伴うと壁の近くまでいく。そしてそこに書かれている文章を読み始めた。

 しばらく読み進めるとミーニャの顔色が変わる。そして…………。


「な、なんですかこれっ! あなた方はこんなものを信じたんですか?」


 先程からの険しい視線の意味を理解したミーニャは怒りをあらわにした。


「ミーニャ落ち着いて。僕は君を信じているから」


 背中にそっと触れる温もり。エリクの手が触れたのだと気付く。

 ミーニャは怒りを鎮めたが、内心が熱くなり落ち着くことができない。


「なるほど。これが僕らを待っていた理由ってわけだね」


 エリクが改めて壁をみると壁にはこう書かれていた。


『この中に1人裏切り者がいる』


 と。

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