第228話アルカナダンジョン【悪魔】⑦
「ん……んぅ。おはよう?」
ルナはのそりと起き上がり欠伸をする。
「おはよう」
返事をするマリナにルナは首を傾げた。
「マリナ寝てないの?」
それというのもマリナの目の下には隈ができていたからだ。
「敵地のど真ん中でそうそうに眠れるわけないでしょう」
「そう? 私が張った結界もあるし、何よりここは安全地帯。何ら問題はないはず?」
昨日、襲い来るモンスターたちをどうにか退けた2人は、ダンジョン内にあるモンスターが入ってこれない安全地帯へとたどり着いた。
そこで体勢を建て直す為、色々と休息をとったのだが……。
「私もルナの図太さを見習うべきなのでしょうね」
いくら安全地帯だからといって熟睡していたルナに、マリナは自分が寝ている間にモンスターが入ってくるのではないかと気が気ではなかった。
「私は私の魔法を信じているから」
ルナの恩恵である【大賢者】は見た魔法を再現することができる。彼女は今回、モンスターが通ろうとすると阻害する結界を張っていたのだ。
仮にこのダンジョンの安全地帯を通りぬけてくるデーモンがいたとして、ルナが張った結界はそれとは別の防御シールドとなっている。
侵入を防ぐことはできない場合も最悪考えられるが、それでも気付くだけの時間は確保できる。
アルカナダンジョンに入ってから――いや、2人きりになってから表情をこわばらせる親友にルナが配慮したのだ。
「それより御飯にしよう。【アイテムボックス】」
目の前の空間が開く。この魔法は一般的な恩恵やスキルで手に入る【アイテムボックス】ではない。
ルナも最初はそっちの【アイテムボックス】を覚えていたのだが、エリクの持つ同名の恩恵を知ってからはそちらを使うようにしていた。
「朝は熱々のスープとパンに限る」
それというのも、普通のアイテムボックスでは時間の経過は避けられないのだが、エリクのアイテムボックスならば時間を停止できる。
覚えた当初はその膨大な消費魔力に短時間しか入り口を開けなかったルナだったが、流石は天才と呼ばれるだけはある。空間容量を狭めることで無理なく維持できるように調整をしてしまった。
そんなわけで、ルナとマリナは食糧不足の心配をする必要なくこうして朝食を摂っていた。
「それにしてもエリクに感謝ですね。ダンジョン内だというのに魔力の補給ができるのですから」
マリナは朝食を摂りながら自分の身体を見回す。
昨晩【クリーン】の魔法を使ったお陰で戦闘による汚れは消えている。
「うん、魔石があるから使いたい放題だし」
探索者が分断されたときの生存率が落ちる原因はモンスターにやられること、次に食料が尽きることだ。
今回の場合、それぞれ分かれたメンバーはイブもエリクもアイテムボックスを持っており、事前に食料を確保している。
なので空腹で倒れるようなことはないのだが、モンスターとの戦闘ではそうはいかない。
武器を使ってスキルを繰り出したり、魔法を使う分には魔力た体力が必要になる。
そして、それらはゆっくりと休息をとらなければ回復することができず、場合によっては安全地帯に辿り着く前にモンスターにやられてしまうのだ。
特に今挑んでいるのはアルカナダンジョン。敵の強さも群を抜くので、食事を摂れなくて空腹状態で戦ってもミスって死ぬし、魔力が足りなくても死ぬ。
エリクから譲り受けた魔石はその2つの問題を同時に解決していたのだった。
「もしかすると4人は既に合流している可能性もあるんですよね……」
エリクもイブもゴッド・ワールドにいつでも入ることができる。今頃は温泉に入って身ぎれいにしている可能性もあるとマリナは気付いた。
「だから、早く合流したい……」
いくらクリーンで身綺麗にしようとも、暖かい食事がでようとも。ゴッド・ワールドでの手厚い支援を体験していると物足りなさを感じる。
「今日こそはエリクにあってみせる」
ルナはエリクの姿を想いうかべると、気力を奮い立たせるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます