第226話アルカナダンジョン【悪魔】⑤

「それにしても倒しても倒してもきりがないね」


 エリクは剣を振い、デーモンを倒しているのだが緊張感がなかった。


「言い出しても意味がないのでは?」


 そんなエリクに付き合うようにミーニャは剣を振る。

 エリクが強すぎるせいで、襲ってくるデーモンたちは時間を稼ぐこともできずに倒されてしまう為、ミーニャも冷静に対処することができた。


「それにしてもミーニャさんは誰に剣を習ったの? 普通じゃありないぐらい強いよね?」


「それをあなたに言われると複雑なのですが……」


 調査によると平民の出ということになっている。

 恩恵の儀式では前代未聞の光を放ったという情報もあることから、彼が今回のアルカナダンジョンにおける重要人物だとミーニャは結論付けていた。


 ミーニャが答えてくれるのを待っているのか、エリクがじっと見つめてくる。彼女はそんなエリクから視線をそらすと……。


「剣は……父に教わりました」


「へぇ、お父さんか。それは相当強い恩恵だったんだろうね?」


 エリクの感心した様子にミーニャは初めて感情を現す。


「今はダンジョン攻略中です。あまり関係ない内容で話しかけてきてこないでください」


「あっ、うん。ごめんね」


 面をくらったのか驚いたエリクはミーニャに謝罪をする。

 あっさりと頭を下げたエリク。ミーニャはやや気まずそうに拳を握ると……。


「わかってくれたら構いません。それより他の人たちと合流したいですね」


 このままエリクと二人きりというのは別な意味でも気まずい。

 ミーニャはそう考えると溜息を吐き、他のメンバーの気配を探るのだった。





「とりあえず、今日はここで休もうか?」


 あれから、結局他のメンバーと合流できなかったエリクとミーニャは、モンスターが入ってこれない安全地帯へとたどり着いた。


「他の皆もダンジョンを進んでいるならどこかの安全地帯で休んでいるだろうし、ここで待っていたら案外くるかもしれないよね」


 袋から簡易的な食料をとりだしたエリクはミーニャに笑いかけながら食事をする。


 ミーニャもそれを見ると少し距離をとった場所で壁に背を掛けて座った。そして自身も荷物の中から簡易的な食料を取り出す。


 二人の間に沈黙が下りる。


 しばらくして食事を終えると…………。


「さて、明日に備えてゆっくりするとしようか」


 ゴロンと横になって休み始めるのだった。




 目の前では無警戒で気持ちよさそうに眠るエリクの姿がある。

 最初は起きていて自分の油断を誘うつもりなのかと考えていたミーニャだったが、どこからどうみても隙だらけで、逆に心配になった。


『可能ならあやつらの何人かを始末しろ』


 アルガス宰相の言葉が脳裏によみがえる。

 ミーニャは持っている剣を無意識のうちに強く握っていた。


(今なら彼の首を落とすことができる)


 緊張し、肌にジワリと汗がにじみ出る。


「うぅ……ん。むにゃむにゃ」


 エリクが寝返りを打つと、ミーニャは意識を取り戻す。


「いけません。疲れているようですね」


 たとえここでエリクを始末したとしてその先どうする。

 エリクはこれまでであった人間の中でもっとも強い探索者だ。


 どうせなら徹底的に利用してその後で…………。


 アルガスの呪いの言葉が耳に染みつく。ミーニャは首を振ってその音から逃れようとするのだが、やがて疲れ果ててしまい。


「…………お父様」


 目から涙を零すと眠りに落ちていった。










 

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