第225話アルカナダンジョン【悪魔】④

「……ここは一体?」


 辺りを見渡すとミーニャは警戒心を引き起こした。

 最後に見た光景はここではない場所だったのだが、エリクが「転移の魔法陣だ」と叫んだことまでは覚えている。


 気が付けば自分は剣を持った状態でこうして立っているのだが……。


「誰も見当たらない。完全にはぐれたようですね?」


 流石に敵地に一人ということで剣に力が入る。先祖から譲り受けたこの【ゲイルブリンガー】さえあればどのようなモンスターでも恐れるに足らず。


 ミーニャは普段通りの冷静さを取り戻すと表情を消す。



 ――ドドォーーーーーーーーーーンッ――


「派手な音がしました。あちらでしょうか?」


 爆発の方向に向けて歩き出す。

 しばらく歩いていると…………。


「あれは?」


 奥で誰かが倒れていた。


「……うぅーん」


「この方は」


 倒れていたのは幸いというべきか一緒にアルカナダンジョンに入ったエリクだった。


「エリク様。大丈夫ですか?」


 ミーニャはエリクの身体を揺すってみる。すると……。


「あれ? ここは……僕はどうしたんだっけ?」


 目を開けるときょとんとした顔をしている。どうやら気絶から回復したばかりで事態を把握していないようだ。


「あの。状況わかってますか?」


 敵地だというのに緊張感のないエリクにミーニャは眉をひそめる。


「ああうん。ミーニャさんが僕を助けてくれたんだよね?」


 そう言うと人懐っこい笑みを浮かべた。


「別に助けたわけではありません。もしかするとあなたなら何か知っているかもしれないと思っただけですから」


 そういうとミーニャはフイと顔を逸らした。


「まあいいけどね。それじゃあ先に進もうよ」


 エリクは立ち上がると武器を改め進もうとする。


「他の人は一緒ではないのですか?」


 その様子にミーニャはざらついたものを感じる。


「大丈夫だよ。ばらばらに転移させられただけみたいだし、そのうち合流できるでしょう」


「は、はぁ……」


 味方とはぐれた割には気にする様子がない。その薄情とも思える態度にミーニャは眉をピクリと動かす。


「どうしたのミーニャさん。行こうよ」


 そんなミーニャの内心を知る由もなく、エリクは振り返るのだった。





「あははは、この程度なのかっ!」


 エリクは剣を振るうと目の前のグレーターデーモンを一刀両断にした。


「ミーニャさんそっちはどう?」


 素早く動き回りつつも高速で攻撃を繰り出し続ける。

 エリクと違って一撃で倒すことはできないが、グレーターデーモンはミーニャの動きに目が追い付かず気が付けば傷を大量に負っている。


「もう間もなく倒します!」


 ミーニャはそう宣言すると、動きが鈍ったグレーターデーモンへと肉薄する。


『ガアアアアアアアアアアアアアアアアッ』


 苦し紛れな爪がミーニャへと襲い掛かるのだが……。


「甘いですね」


 その爪はミーニャの肩を浅く削る。ミーニャはその痛みを完全に無視するとグレーターデーモンの懐へと飛び込むと。


「これで終わりです」


 高速の斬撃を叩きこんでグレーターデーモンを屠った。



「うん、やっぱりつよいね。流石だよ」


 戦闘が終わると息を切らすことなく笑顔で寄ってくるエリク。


「ほら飲んでおくといいよ」


 そう言うと回復ポーションを差し出してきた。


「別に、自分で用意した物がありますので」


 ミーニャはそう答えて断ろうとするのだが……。


「まあまあ、いいからいいから」


「は、はぁ」


 強引にポーションを握らされる。


「ありがとうございます」


 飲まないと納得しなそうなエリクに、ミーニャは溜息を吐くと瓶の蓋をあけポーションを飲み干すのだった。

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