第219話エリクとイブの試験

「くっくそっ! くるなっ! こないでくれええええええええええええええ!」


 剣の柄を振り回しながらゴルゴッサさんは恐慌をきたしている。

 他のパーティーメンバーは気絶しており動くことができないのか、何とかグレートボアを牽制しているようだ。


「さて、流石に死なせるのも寝覚めが悪いし助けるかな」


 僕が剣に手をかけてグレートボアを斬り捨てようと見据えていると……。


「た、たすけてくれえええええええええええええええ」


 グレートボアが突進をする。その突進の動きを見切ろうとしていると……。


「えっ?」


 矢のような勢いで何かが飛び出した。そして…………。


『BUUUU……………………?』


「えっ? あれっ?」


 ――ドスンッ――


 ゴルゴッサさんの目の前でグレートボアが崩れ落ちた。そんな彼の前には……。


「やりますね。今の動きはタックさんやマリナさんにも引けを取らないかとおもいます」


 美しい剣を携えたメイド服をきたミーニャさんが立っていた。

 彼女は相変わらずの無表情ぷりで剣を鞘へとしまう。Sランクモンスターを倒したというのにまるで気にした様子がない。


「よしっ! よくやったミーニャよっ!」


 宰相さんは拳を握るとほっと息を吐く。


「多少計画は狂ったが、あやつさえ突破すれば問題は無い。見たか! あの圧倒的な実力をっ!」


 確かに自慢するだけのことはある。まさか帝国にあれ程の強者がいるとは思っていなかった。


「むぅ……計画が狂っちゃいました」


 頬を膨らませるイブ。こちらの計画では部外者を排除してダンジョン攻略に乗り出すつもりだったからだ。


「さあ、次は小娘と小僧の番だぞ!」


 既にミーニャさんたちは引いており、宰相さんは勢いに乗って僕らを挑発してきた。どうやらミーニャさんの凄さを見せつけられた僕らが悔しがっていると思っているようだ。



「まあいいじゃないか。いつも同じメンバーというのも飽きるしね。そうと決まればさっさと合格を決めちゃおう」


 イブをなだめながら前にでる。


「はぁーい。せんぱいがそう言うなら仕方ないですね」


 計画を進めるのを諦めたのか、イブは僕の隣へと並んだ。


「さあ、先程までの試験はAランクかSランクが出るようにしてましたがあなた方にはSランクのみで試験を受けて貰います。我が帝国もその条件だったんだから文句は言わせんぞ!」


 自分の部下が失格でアルカナダンジョンに入れないので巻き込むつもりらしい。他の受験生達はAランクモンスターの場合もあったのだから、それとこれとは別問題ではないだろうか?


「まあいいですよ。そろそろ眠くなってきたのでさっさと出してください」


 僕は欠伸をすると宰相さんをせかした。結局のところ言い争いに労力を使うぐらいなら倒してしまった方がはやいにきまっている。


「ふんっ! 少しゴルゴッサと斬り結んだ程度でいい気になるとは。あの武器は欠陥品だったのだ。斬り結んだのもまぐれにきまっている!」


 宰相さんの合図にモンスターボックスが起動する。

 どうやら今回は先程までよりも一回り程大きいようだ。


「ははは! 大当たりを引いたなそいつはこのモンスターボックスから出るSランクモンスターの中でも強力なギガンテスだっ! 超重量の棍棒を振るって敵を叩き潰す。貴様らも運がないなっ! せいぜい逃げ惑うがいいわっ!」


 巨人が僕らを睨みつけてくる。


「一応二人で倒さないといけないんだっけ? ソフィアはどっちがいい?」


「じゃあ、ぶっ飛ばす方でお願いします。正直ちょっと怒ってるので」


 ミーニャさんの存在を予測していなかったせいで計算が狂ったのかイブは不機嫌だ。


「遺言は唱えおわりましたかっ! さあ、ギガンテスよやってしまえっ!」


 宰相の命令に答えたわけでもないだろうが、ギガンテスは棍棒を振り下ろしてきた。


 ――ガキンッ――


「なっ、なんだとっ!?」


 僕の腕に衝撃が伝わってくる。ギガンテスの一撃を僕はオリハルコンで出来た柱で受け止めたのだ。


「よしっ! 今のうちに攻撃をっ!」


「はーい。あなたに恨みはないけど邪魔なんで倒しちゃいますねー」


 イブはゴッド・ワールド内から取り出した丸太を振りかぶると…………。


「えーい、飛んでいけっ!」


 ギガンテスをぶん殴った。


「ば、馬鹿な……!?」


 目を飛び出させて驚く宰相さん。


「うん、場外ホームランですね」


 遠く飛んでいくギガンテスを見て満足げに笑うイブ。


「まあ、たかがSランクモンスターじゃな」


「試験で召喚されたモンスターに同情します」


「ナイスホームラン」


 後ろから3人の声が聞こえる。イブは丸太を地面に放り捨てると宰相さんの方へ歩いていき。


「これで文句ないですよね? ソフィアと先輩も合格という事で!」


 勝ち誇った笑みを宰相さんに向けるのだった。

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