第218話壊れたのは武器と計画
「それではモンスターを召喚するのです」
帝国の探索者たちが中央に立つと宰相さんが指示を出した。
「へっ、お前ら。いつもの通りやれば負けはねえ。気合い入れろよ」
リーダーのゴルゴッサさんがそう言うと帝国の探索者たちは気を引き締めた。
モンスターボックスからはかなりの量の煙が出ており、現れるモンスターが巨大になることが経験から推測される。
「どんな戦い方をするのか楽しみですね。せーんぱい」
そんな様子をイブはにこにこと見ているのだが……。
『BUOOOOOOOOOOOOOOOOOO』
煙がはれて咆哮がビリビリと伝わってくる。強大な肉体に大きな鼻に二本の牙が生えている。
「あれは……グレートボア。猪型のモンスターで硬い鼻と鋭い牙を利用した突進を仕掛けてくるSランクモンスターですね」
イブが【神の瞳】で得た情報を僕に伝えてくる。
「あの毛は魔力を通すことで強度が上がるらしく、見た目のわりに相当の魔力を保持しているモンスターなので、生半可な武器では序盤は攻撃が通らずに守りに徹する必要がありそうですね」
その言葉を聞いていたのか、ゴルゴッサさんがこっちをみた。
「確かにその通りだ。普通の武器ならグレートボアの魔力が尽きるまでは武器を消耗しつつ戦うしかねえ。だが、俺達が帝国から貸し与えられたこの武器は特別性なんだぜ! これがあれば魔力切れなんて気にする必要なくこいつを倒すことができる」
『BURURURURRUUUUUUUUUU』
剣を抜いたことで敵を認識したのかグレードボアがゴルゴッサさんに襲い掛かった。
「くらうかよっ!」
伊達にモンスターボックスで訓練していないようだ。ゴルゴッサさんを中心に広がったパーティーメンバーはグレートボアから一定の距離を置く。
ゴルゴッサさんが囮となり正面からグレートボアの攻撃を避けると……。
「よし、お前ら攻撃しろっ!」
側面から槍で、剣で弓を使って攻撃する。
『BUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!?』
それぞれの攻撃はグレートボアの毛を抜け皮膚を傷つけた。
「おおっ、中々やりますね」
イブが感心したような声を出す。
「ふふふ、どうですわが帝国の精鋭は。先程の3人と遜色のない動きをしているでしょう?」
宰相の言う通り、Sランクモンスターとの戦いに慣れているようだ。恐怖で委縮していない分伸び伸びと戦えている。それもすべてはあの武器のお蔭だろう。
「小娘の口車に乗りましたが、やはり帝国の探索者は他とは違いますな。あのままいけばあと10分もしないうちにモンスターを倒せるでしょうよ」
先程イブにからかわれたのが腹に据えかねていたのか、勝ち誇った笑みを宰相さんはイブに見せた。
「ぐぬぬぬぬっ! で、でも! まだ終わったわけじゃ無いですよっ! 勝負は終わってみるまで分からないんですからねっ!」
イブは悔しそうな声を出すと宰相さんに食って掛かる。
「戯言を。グレートボアは既に傷ついていて動きが鈍り始めている。この状況で我が帝国の精鋭がミスを起こすなんてありえません。どうやら決着はアルカナダンジョンでつけることになりそうですかな?」
取らぬ狸の皮算用とはことことなのか、ゴルゴッサさんたちの勝利を確信していた宰相さんなのだが……。
――パキーン――
「なっ! 何だ急にっ!」
ゴルゴッサさんが持っていた剣が音を立てて砕け散った。
「何をしているゴルゴッサ! 貴様その剣がどれだけの価値を秘めているのかわかっているのかっ!」
目の前で剣が砕けたことで宰相さんは看過できないとばかりにゴルゴッサさんを怒鳴りつけた。
「い、いやっ! 何もしてねえよ! 武器が勝手に……」
「ふざけるなっ! 何もしてなくて武器が壊れる訳がないだろうがっ! 貴様の扱い方が悪かったに決まっている!」
剣の柄を持って呆然としているゴルゴッサさんを使えないと判断したのか、
「ええいっ! こうなったら他の人間で倒せっ! 手負いのグレートボアごときに時間をかけているんじゃないっ!」
他の探索者たちに命令をするのだが…………。
――パキパキパキーン――
「な、なんだこれっ!」
「こっちも壊れたっ!」
「どうなっているのよっ!」
他のメンバーが持っている武器も全て砕け散ったのだ。
「き、貴様等! 揃いもそろって何をしておるかあああああああああああああ!」
宰相さんは顔を真っ赤にして激怒していた。
「ふふふ、流石マスター良いタイミングでしたよ」
そんな光景を見ているとイブが近寄ってきて耳もとで囁いてきた。先程までの悔しそうな顔は完全になりひそめている。
「まあ、彼らの自業自得だからね。グレートボアを前に武器を失うのは可哀想かな?」
宰相さんからは勝手に武器が自壊したように見えるだろうが、それには原因がある。僕は自分が作っている武器に2つの機能を付与してあった。
1つは僕とイブを傷つけない機能。これは与えた武器はそれなりの性能を秘めているので自分たちに敵対した人間が握っても攻撃を受けないためだ。
「うわわあああああああああっ! こ、こっちにくるんじゃねえええっ!」
ゴルゴッサさんたちが武器を失って逃げ回っている。グレートボアは先程までと違い巨体を揺らしながらそれを追いかけていた。
「それにしても、盗まないで素直にカジノでゲットしてくれたらこんな目に合わずに済んだんですけどね。本当にマスターを敵に回すとか馬鹿なことをしますよねー」
もう1つの機能は『自壊』だ。正式な手続きをしていない武器に関しては僕の意志1つでいつでも壊すことができる。僕はこの機能を発動して彼らの武器を壊したのだ。つまり…………。
「これで、アルカナダンジョンに挑むのはイブたちだけ。宰相さんのお蔭で余計な人たちを立ち入らせずに済みそうですね」
ほどなくゴルゴッサさんたちがグレートボアに押しつぶされて戦闘不能になった。僕はその姿を見届けると……。
「まったく、イブの挑発にも恐れ入るよ」
宰相さんから言質を引き出してこの状況を作った。有能すぎるパートナーに対し、僕は溜息を吐くのだった。
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