第217話踊る者と踊らされる者

『おいおい。まさかのSランクモンスターが瞬殺だってよ』


『今の技見たか? 凄い破壊力だったぞ』


『伊達にアルカナダンジョン準攻略組だけはあるよな』


 周囲の探索者たちがひそひそと会話をしているのが聞こえる。

 全員が3人の戦闘力に度肝を抜かされたらしい。


「ば、馬鹿な……話に聞く限りAランクモンスターに苦戦していたはずではないのか?」


 宰相は信じられない者を見るような目で3人を見る。

 どうやらアルカナダンジョン攻略時の3人のデータを持っているようだ。


 恐らく探索者の誰かから情報を買っていたのだろう。だが…………。


「タイラントレックスはSランクモンスターの中でも巨大な生命力を持つモンスターだぞ。Sランクモンスターとの対戦経験がある帝国の精鋭でも苦戦は免れない。それなのにどうして……?」


 なにやらぶつぶつと呟いている。余程目の前の光景が信じられないようだ。そんな宰相にタックたちが話し掛けた。


「Sランクモンスターとの対戦経験だぁ?」


「それなら一杯ありますけど?」


「……一杯戦ってきた。師匠のせいで」


「くっ、このモンスターボックスでもなければ対戦経験をつもうにも苦労するはずが……。一体どんな手を使って?」


 警戒心を引き起こした宰相。まさかゴッド・ワールド内にダンジョンを生成してそこで召喚したモンスター100匹抜きをさせられていたとは思わないだろう。


「まあいいです。それだけの強さがあればアルカナダンジョン攻略で足を引っ張らないでしょうから。それでは次に行くとしましょう」


 余裕を取り戻したのか宰相が試験を続けようとする。すると…………。


「あの~。ちょっといいですかね?」


「なんですかな?」


 イブが間延びした声を出した。


「さっきから都合よく強力なモンスターが出てきますよね? 話に聞いていたのと違うきがするんですけど。もしかしてそのモンスターボックスって出現させられるモンスターのランクをある程度操作できますよね?」


 イブは【神の瞳】を使ったようでモンスターボックスの機能を把握しているようだ。


「ふふふ、まさか気付かれるとは思いませんでしたね。その通りですよ、こちらのモンスターボックスは出現するモンスターのレベルを7段階で調整することができます」


『おかしいと思ったんだよっ!』


『ふざけんなっ! 不正をしやがって』


 あっさりと認めた宰相に試験に落ちた探索者の怒声が響く。


「嘘は言ってませんよ。実際にこのアイテムは最弱のモンスターも出すことはできますからね。だけどアルカナダンジョンに挑むための試験ですよ? そんな雑魚を倒して合格になるなんてむしの良い話があると思いますか?」


 その言葉に全員が黙った。宰相に痛い部分を突かれたからだ。


「それにたったいまSランクモンスターを撃破して合格を果たした方もいます。あなた方も倒せば合格だったのではありませんか?」


 タックたちの合格を宰相は利用するつもりらしい。こうなってくると不合格の探索者たちは分が悪い。


「あのぉ~。一ついいですかぁ?」


「なんですか?」


 そのタイミングで再びイブが絡みにいく。


「出てくるモンスターを倒せないから不合格なのはわかるんですけどぉ。それって帝国の探索者さんたちにも当てはまりますよねぇ? どれだけの力があるのか見せて欲しいんですけどぉ?」


 口元に手をあてて楽しそうに挑発をする。イブのその態度に宰相は目を光らせると。


「ふむ。それもそうですな、確かに皆さんを不合格にしておきながら自分たちの実力を見せないというのも道理に反しますな。次は我が帝国の探索者たちを試験するとしましょう」


 イブの言葉に乗った宰相は。


「帝国の探索者たちよ前に出なさい」


 先程僕と戦った探索者が出てきた。後ろには取り巻き共も一緒で、メイドのミーニャさんから剣を受け取っている。


 彼らが身に着けているのは先日アスタナ島から盗み出された武器だ。


「あっ、宰相さんに1つお願いがあるんですけど」


「なんですかな?」


「ここまで話を引っ張っておいてFランクのモンスターを倒して合格とかは認めませんよ。最低限Aランク以上でお願いしますね」


「安心しなさい。言われずとも現在の調整は最高難易度です。彼らにはSランクモンスターと戦ってもらうつもりですよ」


「それなら良かったです。それじゃあSランクモンスター対帝国の探索者さんたちの対戦で倒せなかった人たちは不合格でアルカナダンジョンに挑戦できないってことで間違いないですか?」


 イブの確認に宰相は自信満々に笑うと……。


「ええそれで構いませんよ。ソフィアさんでしたかな? この言葉を引き出すのが目的だったのでしょうが、あてがはずれましたね?」


「どういうことですか?」


 口元に指をやるとイブは首を傾げた。


「この探索者たちが持つ武器はアスタナ島での特注品です。これらの武器は素晴らしい威力を誇っており、事実。このモンスターボックスから出るSランクと彼らは何度も戦っています。つまり、彼らを不合格にするのは不可能というわけですよっ!」


 宰相の高笑いが響く。自分の優位を見せつけることでイブを悔しがらせたいらしい。


「まあ、結果は見てのお楽しみですよ。ねー先輩」


 そう言うとイブは僕に話をふると目くばせをして見せるのだった。


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