第216話宰相の思惑と圧倒的強者

 目の前では探索者パーティーが必死の形相を浮かべてモンスターと戦っている。


 剣が赤く光り炎が上がる。あれは僕が作った火属性を纏ったファイアブランドだな。

 前衛が斬り込み、後衛が支援をする。攻守のバランスがとれた良いパーティーだ。

 そんな分析を僕がしていると……。


「せんぱーい。あのパーティーどう思います?」


「バランスが良いパーティーだと思うね。ただ、中衛の判断が遅いから切り崩すならまず前と後ろを分断するかな」


 僕はイブの質問に素直に答えると……。


「この試験も意味はあったみたいだね」


「ん。どういうことだ?」


 戦闘を見学しながら聞き耳を立てていたタックが僕に視線を向けた。


「今戦ってるのって集団でBランクのモンスターでしょう?」


 今回はパーティー単位の試験でフォレストウルフが集団で現れた。


「そうですね、それが何か?」


 マリナは退屈そうな目線を送ると僕の発言について考える。


「今回の募集はアルカナダンジョンの攻略なんだよね? Bランクモンスター相手にあんなに時間かけていたら通用しないよ」


 その言葉にこの場の全員が黙る。

 僕を含めて皆アルカナダンジョン経験者だ。実体験がある以上そこに異論はないのだろう。


「どうしてそんなパーティーが参加してるんでしょうか? まさかBランク探索者が国で一番強いパーティーなわけないですよね?」


 イブは首を傾げると不思議そうにしている。


「多分だけど、参加国のいくつかはアルカナダンジョンを攻略できると考えていないんだろうね。だから有望な探索者を犠牲にしたくなくて、でも誰も出さない訳にはいかないからこうして中堅を派遣しているってことかなと」


 国際会議でメンバーを募った以上、乗り気ではないとはいえ弱気な部分を見せる訳にはいかない。ここで人員を出さなければ各国に対し負い目をかかえることになるからだ。


「それに、メンバーを出しておいて万が一アルカナダンジョンを攻略できれば攻略者として名を連ねられるし、分け前に口出しする権利もあるだろうから」


 僕が各国の心情を推測してつらつらと述べると……。


「うわぁ……。ソフィアそういうのどん引きするタイプですよ」


「仕方ないことだけど私も好きじゃありませんね」


「普通に嫌い」


 イブとマリナとルナの目が冷たくなり戦っているパーティーを見る。


「だから帝国の宰相さんもそういうハイエナみたいな連中を排除するために試験とか言い出した可能性は高いね」


 宰相さんの内心はどうかわからないが、僕も大人数でのアルカナダンジョン攻略には反対だった。


 力の伴わない人間を連れてのアルカナダンジョン攻略は不可能ではないが、面倒くさい。ここでふるいにかけてくれるのならそれに越したことはない。


「さて、時間切れまでに倒せなかったので失格ですな」


 気が付けばモンスターが描き消え、戦っていた連中が息を切らしている。どうやらタイムアップによる失格らしい。



「それでは次はどなたの出番でしょうか?」


 既にいくつものパーティーが脱落している。

 出てくるモンスターはバラバラなのだが、どう考えてもFランクなんかは出てこない。そのお蔭で試験を突破できたのはわずかな組みだけだ。



「俺が行く」


「私の番ですね」


「早く終わらせて眠りたい」


 タックとマリナとルナが同時に名乗り前に出た。


「おやおや、これはこれは宝石姫と魔剣士王子ですね。これまで見どころのない退屈な試験だったので飽きていたところだったのですよ。噂にたがわぬあなた方でしたら楽しませてくれそうですね」


 宰相さんは獲物を物色するような笑みを浮かべタックたちを挑発した。


「そういうのいいから。早くして」


 だが、ルナが特に気にすることなくそう言うと……。


「ふ、ふんっ! 時間も押してますからね。さっさとやるとしましょう」


 モンスターボックスを操作させる。すると…………。


『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』


 現れたのはこれまでで最大級の大きさのモンスターだった。


「これはこれは、タイランドレックスですね。おめでとうございますSランクモンスターですよ」


 宰相さんは機嫌良さそうに手を叩いて見せた。どうでもいいけど、その音で注意を引かないのだろうか?


 僕がそんな心配をしているのだが、タイラントレックスはタックたちを目標と認めると威嚇を始めた。


「一応言っておきますが、ギブアップなら早めにお願いしますよっ! 試験の最中とはいえ王族相手に怪我を負わせるのは忍びないですからねっ!」


 配慮された言葉なのだが、目を輝かせて言っているせいで台なしだ。


「だってよ。どうする?」


「どうするもなにも……」


「決まっている」


 宰相さんの言葉を3人はつまらなそうに聞捨てると……。


「余計なお世話だおっさん」


「その汚らしい顔で笑わないで」


「馬鹿?」


 その言葉に頬を引くつかせる。そして……。


「いいでしょう! 試験開始ですっ!」


 3人が怯える姿を見たかったのだろうが思い通りにいかなかった宰相さんは指示をだした。次の瞬間…………。


「烈風斬剣!」


「グランドクロス!」


「ディープグリーン!」


 ――タックから無数の斬撃が飛び――


 ――マリナから膨大なオーラが放出され――


 ――ルナから触れる物を砕く不可視の魔力が発せられた――



『ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』


 タイラントレックスは開始と同時に襲い掛かろうとしていたのだが、3つの圧倒的なエネルギーを受けると……。


「ば、馬鹿な……瞬……殺……だと?」


 宰相さんは鼻水を垂らすと顔を青くして事実を口にするのだった。

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