第220話 責任問題と再試験について

「どういうことか説明してくれアルガス宰相」


「我々の探索者をかってに試験するなどと」


「そもそも帝国の探索者も不合格になっておるではないか?」


「い、いや……その、手違いがあってですな」


 宰相さんは汗を拭きながら各国の代表から詰め寄られている。


「フフフ、いい気味です」


 イブがその様子をみて楽しそうに笑う。


「手違いで済む話ですか? こちらは脅威があるアルカナダンジョンを攻略するというから人を出したのです。それを試験で落とされては何のために連れてきたのか……」


 彼らは自分達が連れてきた探索者が試験に落とされてアルカナダンジョンに入れないことに抗議をしている。

 どのような探索者であれ、取り敢えず参加させておけば国のメンツを保てるし、なんなら攻略に協力したということで、報酬の山分けや優先買取する権利を主張するつもりなのだろう。


「よく考えてみると宰相さんのやったことってイブたちにとって有利に働いてますよね」


 イブがぽつりと呟く。


 確かに、そういった輩を事前に排除できたのはでかかったのだが、その代償として肝心の帝国の精鋭(笑)とやらが全滅したことで抗議を受けている。


 こちらの意図を汲んでくれて泥は自分で被る。もしかして宰相さんはそこまで読んでいたのだろうか?


 『試験をした国の探索者が1人しか突破できないなど試験難易度が高すぎる』『そもそも少人数で挑むリスクは避けるべき』


 などなどの主張を各国の代表は繰り返し声を大きくして叫ぶ。

 アレスさんやアルテミスさんなどは険しい顔をしつつその主張を聞いているのだが……。


「とにかく。再度試験をした方がよいのではないですかな?」


 どこかの国の代表がそういうと宰相さんもほっとした顔をする。

 敗者復活を望むのは宰相さんも同じなのでこれはそういう筋書きなのだろう。僕が白けためで彼らを見ていると……。


「納得できませんわね」


 その一言に抗議する人間がいた。


「マリナ様。どういうことでしょうか?」


 うるさい代表は首を傾げるとマリナの言葉の意味を問うた。


「ここにいる私を含む数名はそれこそSランクモンスターを倒して試験を突破しています。誰もが突破できない試験であれば問題もありますが、こうして合格者が出ている以上、難易度に問題はないのではありませんか?」


「そ、それは……。確かにあなた方の強さは我が国にも噂が届いています。ですが、あの悪名高きアルカナダンジョンであるからこそ、多少力が劣っても人数で補うべきではありませんかな?」


 自分たちの探索者も露払いの役に立つから連れて行けと主張しているようだ。だがマリナはつまらないものを見るような目でその人物の方を向くと。


「失礼ですが、ここの方たちはアルカナダンジョンの凶悪さを低く見積もっていませんか?」


 マリナは形の良い眉を歪めると諸国の代表を見渡す。


「な、なにをそのようなっ! 我々も文献や伝承を聞き、アルカナダンジョンが危険だと認識して――」


「そんな程度の認識では足りません」


 代表の言葉をマリナはピシャリと黙らせた。


「溢れ出るように襲い掛かってくる高ランクのモンスターに凶悪な罠。剣で傷つかず魔法を跳ね返すモンスター。たとえ傷をつけても瞬時に回復する身体。そして無限のスタミナ」


「な、なんの話ですかな?」


「アスタナ島で私たちが攻略したアルカナダンジョンの最後に出てきたボスのことです」


 その言葉に全員が息を飲んだ。アルカナダンジョンを攻略した話は聞いているかもしれないが、実際に体験した内容までは伝わっていないだろうから。


「そ、そのような化け物を一体どうやって?」


「仮面の男が現れてボコボコにしました」


 僕が【神殿】に祈ってステータスアップして丸太で滅多打ちにしたのだ。


「そ、それは何とも人間離れした……本当に人間の仕業でしょうか?」


 全力で引いている代表。失礼なことをいう人だ。


「これから挑むアルカナダンジョンにも同程度のモンスターは存在するでしょう。そうなったときにAランクモンスターすら倒せないメンバーがいては足手まといです。その場を切り抜けることが出来ない程度の人間がどうやってボスのいる場所までたどり着くのでしょうかね?」


「うっ……」


 これには代表も黙るしかない。宰相さんが苦々しい顔をしている。

 試験を仕掛けた彼にはこの場の発言権がない。どうにか手を打てないか考えを巡らせているのだろう。


「それでも、そうですね……」


 マリナはふと笑みを浮かべると面白いことを思いついた様子で、


「再試験をするというのならやってもいいですよ。ただし、試験の内容は私に決めさせていただけたらですけど」


 てっきり認めないと思っていたマリナが譲歩したことで周囲の人間からざわめき声があがる。

 その場には不合格の探索者たちもおり、事態を見守っていた。


「そ、そんなことでよいのですかな。マリナ様?」


「それはどのような試験でしょうか?」


 期待の眼差しを受けたマリナは宝石姫と呼ばれた美貌をで皆を魅了する笑みを浮かべる。そしてその場の全員を見渡していった。


「そこにいるエリクとソフィアのどちらかに勝つ。それが合格の条件です」


「なんだ、そんなことか」


「いやはや、マリナ王女様も話せばわかってくれると思いましたよ」


「それでは早速試験を行いましょう」


 ほっとした様子で笑い始める各国の代表。


「よし、お前たち。相手は学生さんだ、あまり手荒な真似はしないで合格を――」


 彼らは振り返り自国の探索者にはっぱをかけようとするのだが…………。


「「「「「勘弁してください!!!」」」」」


 試験の時にギガンテスをぶっ飛ばしている僕とイブを見ていた探索者たちは顔を真っ青にして断るのだった。

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