第212話メイドのミーニャ
「えーと、あなたは?」
僕も剣を収めると目の前のメイドさんに話しかける。
「私は帝城でメイドを務めているミーニャと申します」
ミーニャさんはスカートをつまむとお辞儀をして見せた。
「ミーニャ。てめぇ余計なことをしやがって!」
帝国の男がミーニャさんに対して文句を言う。
「あの……口だけ達者なのはいいですけど、負けておいてその態度は無いと思いますよ?」
「……う、うるせえ」
何やらぼそぼそと言い返してきたが小声過ぎて聞こえない。
僕は目の前の男がなんと言ったのか気にしていると……。
「先輩。この人『うるせえ』って言いましたよ。反省してないし斬りましょうよ」
僕の肩に手を置くとイブがのしかかってくる。軽い口調で言っているが恐らく本気で斬りたがっているのだろう。
「ひっ!」
相手の男にもそれが伝わったのか悲鳴を上げている。最初はイブのことをいやらしい目で見ていたくせに態度が変わっている。
「あの、できればこの人たちを見逃してはもらえないでしょうか?」
エメラルドの瞳が僕を見つめてくる。
「とはいってもね、勝手に絡んできたうえに僕の連れをいやらしい目でみてきたんだよ」
普通に考えても制裁は加えておきたい。それに…………。
僕は男の手にもつ剣を見る。
男たちが持っているのは僕が作った剣だ。港から盗まれた剣で帝国にあることは解っていたのだが、まさかこうもあっさりと見つかるとは。
「どうしますか、マスター?」
イブが耳もとで囁く。この場で盗人を糾弾しても良いのだが、僕は少し考えると……。
「もう少し泳がせた方が面白くなりそうだよね?」
「そうですね、マスターの武器ならいつでもどうにでもなりますし」
僕とイブがもう少し様子をみることを決めていると、ミーニャさんが動いた。
「お客様のお怒りはもっともです。怒りを収めていただけるのでしたらこの身体を好きにしてくださって構いません」
ミーニャさんの指が自分の胸に沈み込む。目を見るのだが、エメラルドの瞳に一切の揺らぎがない。どうやら本気で言っているらしい。
「いや、そんなことしてもらわなくても結構だよ」
いやらしい目で見られた代償として自分を欲望のはけ口に使おうという提案だが、あいにく間に合っている。
「よろしいのですか?」
断られると思っていなかったのか、ミーニャさんは聞き返してくるのだが……。
「そう言うのは結構だから1つ頼みがあるんだ」
「なんなりとおっしゃってください」
「帝城に行くまでにこういった手合いに絡まれると面倒だからさ、案内して欲しいんだよね」
その動き1つをとっても実力者だ。更に僕が鍛えたのと同等の剣を携えている。
どう見てもただのメイドではない。そんな相手と一緒ならこれ以上帝国の人間に絡まれて不愉快な思いをしないで済むだろう。
僕の提案に納得したのか、彼女は――
「わかりました。ミーニャが帝城までご案内いたします」
――表情一つ変えることなく頷くのだった。
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