第213話帝城に入る

 帝城へと向かう道を黙々と歩いている。

 目の前ではメイド服をきたミーニャさんは僕らを気にも留めずにそれはもうスタスタと進む。


「せんぱーい。このメイドさん本当に帝城まで真っすぐ向かうつもりですよ」


 イブがひそひそと耳打ちをしてくる。

 僕らとしてはせっかくの案内役を得たのだからもう少し観光をしたいと考えていたのだが、どうやらミーニャさんには僕らを接待するという発想は存在していないようだ。


「そう言えばさっきの人たちとは知り合いなの?」


 あまりにも何もないので、僕は無理やりにミーニャさんに話しかけてみる。


「そうですね。彼らは帝国でも名を馳せた探索者です」


 だが、彼女は振り返ることなくそう呟く。


「せんぱーい。この人全然笑わないですよ」


 イブの不満は解る。先程から息苦しい雰囲気が漂っているのだ。

 職業メイドなのだろうか、余計な行動を一切省いているようでそもそも僕らに興味がない。


 これだったら最初から2人で見て回った方がましなんじゃないかと考えていると……。


「どうかしましたか?」


 ミーニャさんは振り返ると質問をする。そのエメラルドの瞳には意思が感じられない。


「いや、特に問題ないですよ」


 僕が笑ってそう返事をすると、


「そうですか?」


 彼女は再び帝城へと進むのだった。





「こちらがお客様のために用意した部屋になります」


 帝城の門を抜け、厳重なチェックを終えると僕らは来賓部屋へと案内された。


「今晩はアルカナダンジョンを探索するメンバーを集めたパーティーが開催されます。時間になりましたらお呼びしますので、それまで寛いでお待ちください」



「ん、わかった。ありがとう」


 ミーニャさんの相手に疲れた僕らはベッドへと腰を下ろす。

 今夜はアルカナダンジョン探索メンバーの顔合わせを兼ねた親睦パーティーが開催されるのだ。



 彼女が出ていくとイブがごろんとベッドに横たわる。


「それにしても本当に変な子でしたね」


 まるで感情というものが抜け落ちているかのような態度に僕もイブも戸惑いを覚えていた。


「だけど随分と強かったな。帝国にもあのレベルの剣士がいたんだな」


 僕の斬撃を受け止めたことといい認識を改めなければならないだろう。


「マスターこの後どうしますか?」


 イブはベッドから少し顔を上げると僕に質問をしてくる。


「予定よりずいぶん早く入城したからな、とりあえず親睦パーティーまで昼寝でもするかな?」


 お菓子を食べて運動をしたので気持ちよく眠れそうなのだ。僕は眠気に身を任せると……。


「ではイブは帝城を探ってきますね」


 そう言うとイブはゴッド・ワールドへと引っ込んでいくのだった。



          ★


「ご報告します。本日他国のアルカナダンジョン攻略組が帝城へと入りました」


 大臣の執務室を訪ねたミーニャは抑揚のない声で淡々と報告を済ませていた。


「その前に、街中で騒動があったようだな?」


 帝国でも指折りの探索者がエリクと揉めた件について大臣は情報を既に耳にしていた。


「はい。ゴルゴッサを含めた数名がコロシアムで決闘をしておりましたので、仲裁にはいりました」


「ふん。ゴルゴッサめ、せっかく名剣を貸し与えてやったのに恥をかかせおって。探索前に他国の探索者を痛めつけるように言っておいたのにこれでは逆にこちらが舐められてしまうではないか」


 アルカナダンジョンを有利に攻略するために他国の人間に絡むように指示をしていたのだが、エリクを相手に負けてしまった。


 実際に剣を受けたミーニャにしてみればゴルゴッサでは勝てないと判断できるのだが、その場にいなかったアルガスにはゴルゴッサが弱いと思えた。


「まあいいさ。今夜は親睦パーティーがあるのだろう?」


 下卑た笑みを浮かべると……。


「そこで奴らに目に物を見せてやるとしよう」

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