第205話国際会議
『今度ブルマン帝国で国際会議が行われることになった』
アレスさんはコールリングで僕にそう伝えてきた。
「なるほど、それはもしかして僕にも参加してほしいとかですか?」
何せ山脈にクレーターを作った張本人だ。
一応箝口令が敷かれているのだが、デーモン討伐の時点で多くの人に僕の力の一端を見せていたので噂として名前が伝わっていても不思議ではない。
そんなわけで帝国の人間が僕を名指ししたのかと考えたのだが……。
『いや、新しく発見されたアルカナダンジョンの扉を開ける合言葉を帝国が発見してな。各国から人を集めて攻略を目指すことになったんだ。今度の会議でその顔合わせがある』
アレスさんは詳しく話してくれた。なんでも各国の精鋭によるクランを作り上げそれをアルカナダンジョンに投入することで一気に攻略してしまうつもりらしい。
『俺たちはそれに異を唱えたんだがな、合言葉を知っているのが帝国だけなので提案をはねのけてきたのだよ』
苦い声を漏らすアレスさん。主導権があちらにある状況というのはあまり良くない。こちらの選択権を狭められているからだ。
「それにしても妙に強気なんですね? アルカナダンジョンと言えば恐怖の代名詞ですよ。もし他国が戦力を出し惜しみしたら攻略なんて実現不可能でしょうに……」
一度壊滅してしまえば次の人材が育つまでにはかなりの時間を要する。それとも何かあるのか……?
僕がそんな疑問を浮かべ首を傾げると。
『それは俺も不可解なんだ。もしかすると我が国に対抗できる戦力のめどがついたとかだろうか? 今度のアルカナダンジョン攻略の実績はそのまま国力の誇示に繋がるからな』
自国の民が活躍したならその名を近隣に轟かせることが可能。そうすれば他国からのいらぬちょっかいを防ぐこともできる。
「わかりました。そういうことなら僕も参加させてもらえますか?」
ちょうど近々帝国に顔を出そうと考えていたので、アレスさんのこの話はタイミングが良い。
『俺たちはエリクを家族のように大事に思っている。ここで無理に国のためとか考えて参加する必要はないのだぞ?』
それは以前にも言われたことだ。攻略者としての力を示した僕にアレスさんはこれまでと変わらぬ態度を貫くと宣言してくれた。
「国のためとかアレスさんのためじゃないですよ。ただ、僕の相棒がそこに眠るアルカナオーブに興味深々なんです。これで帝国にでも取られたら機嫌を取るのが大変でしょうからね」
視線を向けてみるとイブがメイド服姿で掃除をしている。僕を目が合うとニコリとほほ笑んだ。
『ははは、アルカナダンジョン攻略者にとってはダンジョンの難易度よりも相棒の機嫌の方が難易度が高いか』
冗談を言っていると思ってるようだが割と本気なのだが……。
『そうか、それではエリクをアルカナダンジョン攻略候補としてメンバーに入れておくことにしよう』
アレスさんのその言葉と共に僕は通信を切るのだった。
★
「そうか、各国とも参加を表明してきたか」
皇帝の執務室で、宰相は送り付けた書状の返事を確認していた。
ここ数年でモカ王国やキリマン聖国、ほかにも周辺に存在する小国に変化が訪れていた。
学生の中から優秀な人間が発掘されるようになったり、良質の武器や防具が市場に流れていたり。
食糧などの物資に関しても余裕があるようで、高品質のそれを求めた人間たちのせいで国外に金が流れている。
そのお蔭で帝国は徐々に締め付けを受けていた。
極め付きは最近のアスタナ島でのカジノ経営だろう。
これまで魔導具や魔法具の最先端は帝国であった。魔法が付与された武器や防具は貴重品で、鍛冶士も熟練が揃っている。
だが、アスタナ島のカジノにはそれをはるかに超える性能の武器や防具が当たり前のようにあり、魔法具に関しても探索者たちの需要を満たす人気の物が並べられている。
こうなっては眺めてなどいられない。
何せ、各国の人間がその噂を聞きつけてアスタナ島のカジノに入り浸っているのだ。
そして金と引き換えに高価な武器や防具、魔法具を手に入れて笑顔で帰国していく。
このシステムを聞いたとき宰相は「どんな悪魔的発想でこれをやろうと思った」と震えた。
供給がなければこのカジノシステムは破綻する。魅力ある景品が肝だからだ。
最初はそんなレア魔法具を大量に用意できるわけない、いずれつぶれると思っていたが、逆だった。
どんどん新しい魔法具がでてきて帝国の中にもそれを手に入れてきては社交パーティーで自慢するものまで……。
「だが、その武器も手に入れた」
宰相は高笑いを浮かべる。
「同じ武器を手にしている以上、強さを決めるのは個人の能力だ」
帝国には表に出さない選りすぐりの部隊が存在している。
身寄りのない子供を集め徹底的に教育を施す。そこで振るいに掛けられ生き残った精鋭が……。
「あの武器をやつらに使わせればアルカナダンジョンなんぞ攻略したも当然」
アスタナ島から厳重に運ばれている荷物があると情報を得た宰相は何かあると思いそれを部隊に盗ませた。そこにあったのはこれまで市場に存在しない強力な武器や防具に魔法具だった。
その威力を目の当たりにした宰相が、これならば単独での攻略も可能だと判断してしまうのも無理もない。
——チリン――
呼び鈴がなり、メイド服をきたツインテールの女が入ってくる。
「もうすぐ国際会議が開かれる」
「はい」
メイドは物怖じすることなくそう答えると宰相を見た。
「そのあとはアルカナダンジョンに潜ってもらうことになるわけだが、言うまでもないが各国に後れを取ることは許さん。気を引き締めて臨むように」
「わかりました」
その言葉と共にメイドは退出していった。
「ふん、無愛想な」
出て行ったメイドを宰相は一瞥すると笑みを浮かべ……。
「だが、あいつこそ帝国の最高傑作。アルカナダンジョンの攻略が始まったら各国のやつらは度肝のを抜かれることだろうよ」
そういって含み笑いをする。
だが、彼は気付いていなかった……。
彼が荷物を盗んだことでとてつもなく厄介な人物に既に目をつけられているということに……。
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