第204話積荷泥棒

「えっ? 積荷が盗まれた?」


 副議長からの緊急連絡を受けた僕は、開始そうそうに悪い話を耳にした。


『ああ、頼まれていた魔導具や武器防具を出荷したのだが、何者かに奪われた』


 僕はバチルスさん、アーサーさん、アルテミスさんと取引をする約束をしていた。

 それというのも今後のデーモン対策に彼らが協力をしてくれると言ったからだ。

 僕が鍛えて丁度余っているアイテムが結構ある。

 アスタナ島に置いてあるレアアイテムの中から優良な物を選んで出荷するように副議長に指示をしていたのだが……。


「怪我人とか出ませんでしたか?」


『どうやら港に着いた船に深夜に忍び込んだらしくてな、警備は眠らされてはいたが大丈夫だ』


「そうですか、それなら良かった」


 魔道具や武器防具はまた作ればいいけど、命は失ったらおしまいなのだ。

 僕は胸を撫でおろすと……。


「警備していた兵士たちの話では相手は相当の手練れということだ。腕に覚えがある冒険者もいたのだが、何もできずに無力化させられたらしい。荷物は俺の責任をもって奪い返す。申し訳ないが責任を取るのはそこまで待ってもらえないだろうか?」


「流石になんの罰も与えないというのは不味いので償ってもらいますが、副議長を外すつもりはありません。責任をとるということなら今後も経営に尽力してください」


「……配慮ありがとう。感謝する」


 副議長は言うまでもなく優秀な人間だ。そのうえ自分を犠牲にしてでも部下を庇う思いやりも持ち合わせている。こういう真面目な人間こそ上に立つべきだと僕は考えているので、この程度のミスで辞められてしまっては逆に困る。


 全く罰を与えないのは今後似たような犯罪が起こらないための抑止力として必要なので行うつもりだが。


「ひとまずこちらは足りなくなりそうな魔法具なんかを仕入れておきますので、引き続き運営の方をよろしくお願いしますね」


 僕はそういうと通信を切った。





「どうかしましたか。マスター?」


 通信を終えるとイブが僕の顔を覗き込んできた。


「ああ、副議長から緊急連絡。どうやら各国に売る予定の積荷が盗まれたらしい」


「なるほど、それは大変ですね」


 唇に手をあてて眉をひそめるイブ。


「それでどうしますか?」


 イブは青い瞳を僕に向けると問いかけてきた。


「……しばらく様子は見るけど、積荷を追いかけておいてもらえる?」


「はーい。マスターの仰せのままに」


 そういうとイブは確認は済んだとばかりに視線を変えた。


「それで、タックの仕上がりはどう?」


 地面には身体を横たえて息を切らしている3人の姿があった。


「最近はようやくタロウに勝てるようになったぐらいですね」


「なかなか力をつけてきたみたいだね」


 タロウはゴールデンシープの中では5本の指に入る羊だ。そんなタロウに勝てるようになったのなら十分かもしれない。


「ルナさんとマリナさんの様子はどうですか?」


 イブが逆に聞き返してきた。


「ルナはまあ結構鍛えてたから順調かな。マリナもあと少しで100匹抜きを達成できそうな感じ」


 最初は気丈だったマリナだが、毎日特訓をしている間に逃亡をはかった。

 僕は心を鬼にしてマリナを捕まえては特訓場へと放り込み続けた。


 そのお蔭もあってか吹っ切れたようで、鬼の形相で目の前の敵を倒すようになったのだ。

 1つ気になるのが「こいつらの相手なんてエリクに比べたらまし」とブツブツ聞こえてくる点だが、マリナも色々あるのかなと思ってスルーしている。


 今ではこうして息を切らして倒れているが、僕に背負われていたころに比べると随分と成長をしたものだ。


 どこか誇らしげに口元を緩ませている3人。僕とイブが褒めているのが聞こえたのだろう。


 そんな姿が目に入ったのか僕はイブと目を合わせる。どうやら彼女も同じ考えのようだ。


「なあ、イブ。僕ちょっと思いついたんだけど」


「マスターもですか? イブもちょっと考えていたんですけど……」


 僕らは頷くと同時に同じ言葉を口にした。


「「余裕ができてきたようだから特訓の難易度を2倍にしよう」」


「「「やめてっ!!!」」」


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