第206話神の瞳

「これで完成ですね。神器【神の瞳】」


 台座には神々しいオーラを放ったコアがはめ込まれている。

 オリハルコンの縁取りで周囲を覆った透明な石。その中心には瞳のような青い球体が見える。


 イブが言うように、まるで巨大生物の瞳のようだ。


「これがあればアルカナオーブの解析をすることができるんだよな?」


「はい。イブが用意したこの台座に神の瞳をセットすることでSPが自動供給されます。そして反対側の枠にアルカナコアをセットすることで解析が始まる仕組みですね」


「じゃあ試しにこのランクⅥのダンジョンコアを解析してみようか」


 神の瞳が完成したら実験をしてみる必要があるということで、あらかじめ用意しておいたコアを解析側の台座にセットした。


「ちなみにイブだとこのコアの解析に半日はかかります」


 イブはそう言うと指をピッと立てた。


 台座には溝のようなものが彫り込まれており、神の瞳から光が出ると溝を走りランクⅥのコアへと向かう。


 光は解析の台座へと到達するとターンして神の瞳へと戻ってくる。

 その様子を僕は興味深く見ていたのだが……。


「どうやら解析が終わったようですね」


「早っ! もうっ?」


 時間にして10分も掛かっていない。イブが半日かかるコアを神の瞳はあっという間に解析したということか。


「ではコアの効果を投影します」


 そう言って映されたのは……。


【結界】……魔力を込めることで不可視の壁を作ることができる恩恵。壁の強度・広さは込める魔力の量によって変わる。


「なるほど、結界か」


 僕は早速その恩恵を使ってみる。

 掌を前に向け魔力を放つ要領で力を籠める。


「こんな感じかな?」


 すると目の前に歪みのような気配が感じられる。一人用テント位のドーム状だろうか?

 このぐらいなら子供が入れる程度だろう。


「ふーむ。不思議な触り心地です。硬くも柔らかくも無い……叩いてもいたくないけど跳ね返ります」


 イブは僕が作った結界にペタペタと触ってみる。見た目はルナの魔力障壁に似ている気がする。


「取り敢えずオリハルコンの丸太で試してみるか」


 僕は丸太を取り出すと、思いっきり結界をぶん殴った。


 ――ピシッ――


「あっ、亀裂が入りましたよマスター」


「なるほど、言うほどの防御力はないのかな?」


 思っていたよりももろかったので少し落胆していると……。


「とんでもないですって。マスターの怪力でこれだけしかヒビが入らないんですよ? ましてやオリハルコン使ってるのに! これを使ったら絶対防御に近いです」


「そんなもんかな?」


 まあ、イブが言うからにはそうなんだろう。


「まあ、この力があれば非戦闘員がいた場合結界で護ってあげられるかな?」


 これまでも被害が出ないように注意を払っていたが、この力があれば戦闘の余波を受けないので安心して戦うことができる。



「話が変わるけど、そういえば神の瞳ってステータスも視ることができるんだっけ?」


「そうですね。試してみましょうか」






「それで、私が呼ばれたと?」


 目の前ではじっとこちらを見るルナがいた。


「うん、新しい魔法具の実験台になってほしくてさ」


 僕はステータスを見るという神器の特性をルナに伝える。


「……それエリクがイブに使えばいいんじゃ?」


 ルナは首を傾げると至極当然の質問をしてきた。


「それがさ。イブに使ってみたんだけどうまく表示されなかったんだよ」


 キャロルやカイザーに使ったときはステータスが表示されたのだが、なぜかイブだけはステータスがうまく表示されなかったのだ。



「……まあいいよ。どうすればいい?」


「ルナはそのままにしていてくれればいいから」


 了承を得たので、僕はルナに向かって神の瞳を使った。


「なるほど……」


 次の瞬間、ルナのステータスが投影された。


・種族:人間

・職業:王女 大賢者

・能力:全魔法

・体力:5000

・魔力:50000

・筋力:1000

・敏捷:4500

・運 :7000



「凄いなルナ……一般人と比べて格が違い過ぎる」


 実験としてそこらの人間に神の瞳を使ってみたところ、成人の男性でも全ての項目で10前後だった。

 だが、ルナはそれを大きく上回っている。


「まあ、エリクにしごかれてるから」


 照れた様子のルナ。彼女は早くから僕の特訓を受けていたので成長著しい。恐らく世界中の人間の中でもトップクラスの実力に違いない。


「それにしても自分の強さを数値化できるのって面白い」


 これまでこの世界ではこうした表現方法は用いていなかった。

 ランク分けが主となっておりSSSランクからGランクまでといった曖昧な分け方をしていた。


「この神の瞳は劇的ですよ。今、数値としての概念が生まれましたので将来的に世界中の表記がこちらで統一されるかもしれませんね」


 確かにランクよりも数値化されている方が便利かもしれない。僕はアスタナ島あたりからステータスを読み取る装置を導入すべきか検討していると……。


「私ばかり覗かれてずるい。エリクのも見せて」


 ルナはそう言うと僕に向けて神の瞳を使ったのだが……。


「嘘……見えない?」


・種族:人間

・職業:愚者

・能力:ゴッド・ワールド

・体力:*******

・魔力:*******

・筋力:*******

・敏捷:*******

・運 :*******


「神の瞳の仕様で力の差がある相手の能力は読み取れないんだよね」


 完全にバグっているステータスをみたルナは大きく目を見開くのだった。

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