第201話地獄の特訓①
「はぁはぁはぁ……」
マリナは地面に剣を突き差し身体を支えて息を切らしている。
「ほらほらマリナ。まだAランクモンスター8匹目だよ。こんなんじゃアルカナダンジョンに入るなんて無理に決まってる」
その状態から一歩も動かない彼女を僕は挑発した。
「くっ! 次を寄越してくださいっ!」
現在、僕はゴッド・ワールド内に作った訓練場型ダンジョンでマリナに訓練をつけている。
「いい意気込みだ。それじゃあ次の相手は以前マリナが倒せなかったデッドリーポイズンエレメントで」
「ちょっと! それ物理攻撃がほとんど効かないモンスターですよね!」
ダンジョン内ならばSPとモンスターの魔核さえあればいくらでも高ランクモンスターを呼び出して戦わせることができる。
「君は戦場に1人で強敵に出会ったときにそんな言葉を口にするの? 僕はマリナならやれると考えている。僕を失望させないでよね」
「くっ……この天然さんは。そこまで言われたら逃げられないじゃないですかっ! いいです掛かってきなさいっ!」
良い感じに効果があったらしい。
マリナは剣を構えると気合を入れなおすのだった。
「うっ……うーん?」
背中の方からマリナのうめき声が聞こえる。どうやら気絶から復活したようだ。
「ここ……は? 私、なぜエリクに背負われているのですか?」
起きたばかりで混乱しているようだ。
「お疲れマリナ。結局9匹倒したところで力尽きたんだよ」
Aランクモンスター100匹斬りの目標を与えたのだが、ペース配分が不味かったのかマリナは体力と魔力を使い果たして地に伏した。
なので僕はマリナを背負って移動しているというわけだ。
「ううう……不甲斐ないです」
弱弱しい声でマリナは僕の背中に顔を埋めた。
「何が?」
「だって、エリクの掲げた目標に届くことができませんでした。こんなのでは特訓に付き合ってくださっているエリクに申し訳がなくて……」
どうやら自分の無力に打ちひしがれているらしい。
「いやぁ。想像以上だったよ? 僕もまさか初日で9匹も倒せるとは思ってなかったもん」
「えっ? だって、エリクは私ならやれるって……」
「あのねぇ。仮にも相手はAランクモンスターだよ? 普通ならダンジョンの奥でボスやってたりするクラスなんだ。それを単独で9匹も倒せるなら上出来さ」
あえて無理な目標を与えたのだ。人間は自分で勝手に限界に線を引く生き物だから。最初から無理なスケジュールを与えておき、考えることを放棄させてひたすら進ませる。これは前世での職場でやらされたことだった。
結局72時間耐久でなんとか仕事を終わらせたのだが、あの時に「やればできるんだな」と呟いたのは忘れられない。
そもそもマリナの特訓とはケースが違うが、モンスターの動きをきちんと管理できるこのゴッド・ワールド内でなら相手を殺さずギリギリまで追い込める。
彼女は気付いていないだろうが、今日1日で格段にレベルアップしているのだ。
「その……エリク。下してもらえないでしょうか?」
「ん。なんで? 疲れてるでしょ?」
何やらもぞもぞと身体を動かし始めるマリナ。背中や顔に髪やら胸が当たるのだが……。
「あれだけの敵を相手に動き回ったので……汗臭くないかなと思いまして」
「マリナが頑張った証でしょ? 気にする必要はないよ」
僕が当然のように答える。するとマリナは溜息を吐くと……。
「本当にあなたという人は……。もう少しデリカシーというものを学んだ方がいいですよ」
力を抜き完全に僕に身を委ねると……。
「いずれ成長して逆にあなたを背負えるようになりたいものですね」
「期待しているよ」
後ろで笑うマリナに僕も同様に笑いかけるのだった。
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