第200話エリクの告白
「ん……んぅ」
白い頬に手で触れてみる。汗をかいたのか肌がしっとりとしており僕はタオルを絞ると丁寧にふき取った。するとイブは安心したのか表情を和らげると僕の手に頬を寄せてきた。
「大丈夫のようですね?」
マリナが安心したような声を出す。僕がイブの様子を見に行くといったら付いてきたのだ。
「昨晩からママが頑張ってくれたから」
本当にアルテミスさんには頭が上がらない。僕が力尽きて寝ている間、一晩中イブの世話をしてくれていたのだ。
「それにしてもあんなお礼で良かったのか?」
「うん。ママも私と同じ【大賢者】だから。いざというときの魔力が手に入るのは嬉しい」
先程。僕はアルテミスさんにイブを助けてくれたお礼をしようとした。するとアルテミスさんは僕が渡しておいた魔石を欲しがったのだ。
「あのぐらいすぐに作れるからね。お礼というには足りない気がするんだけど」
仕方ないので魔石をいくつかとクリーンの魔法具を渡しておいた。今頃は身体の汚れをとって気持ちよくベッドで眠りに落ちているだろう。
ちなみに他の王族の人たちも今は休んでいる。僕が自分のことについて説明をしていると、最初はオーバーリアクションで驚いていたのだが、最後の方は目が虚ろになっていたからだ。
恐らくデーモン襲撃のストレスでまいってしまったのだろう。
「それにしてもこいつがお前の連れだとは……。ソフィアってのは偽名でイブが本名か? どうりでやばい相手だったわけだ」
タックがそんな感想を述べる。アスタナ島でイブに手玉に取られたのを覚えているのだろう。
「その……、とても綺麗な方なのですね。うう……この世の物とは思えない顔だちですわ」
イブを間近でみるのは初めてのアンジェリカ。何気にショックを受けている。彼女の美貌も相当だが、イブを相手にすると自信を喪失するようだ。
「それで、この子がエリクの恩恵ということですが……」
マリナのイブを見る目がまだ疑っている。無理もない。こうして眠っているイブはどこからどう見てもただの女の子だからだ。
「ザ・ワールド。今は進化してゴッド・ワールドになっているけど、僕の恩恵はダンジョンコアを得ることで空間を拡張したりダンジョンを作ったり、コアの様々な能力を引き出すことができるんだ」
「途方もない力だな……」
タックがゴクリと喉を鳴らす。
「もしかしてエリク様がたまにおすそ分けしてくださる野菜や果物、私にくださったペンダントや短剣は……?」
「うん。全部僕のゴッド・ワールドで作ったんだ」
アンジェリカも僕にとって大切な人なのだ。王族は物騒なことが多いので身を守るための魔導具を渡しておいた。
「イブはゴッド・ワールドや僕の健康を管理するのが仕事なんだ」
そう言うと僕は優しい目をイブに向けると頭を撫でる。すると……。
「うぅ……ん? マスター?」
イブが目を開いた。
「まだ起きちゃだめだぞイブ」
起き上がろうとした際にシーツがずれて肩が見える。どうやら治療の時に服を脱がされているようだ。
「イブ。どう?」
シーツをかぶりなおしたイブをルナが上から覗き込む。
「ルナさん? どうしてイブの名前を……?」
「エリクが全部ばらしたから。ようやく本当の名前で呼ばせてもらえるね」
ルナだけはイブの本当の名前を知っていた。だが、僕がイブのことを秘密にしたがっているのを知っていたので、何かの拍子に間違えて呼ばないようにこれまではソフィアと呼んでいたのだ。
「そうですかマスターが……って! マスター! アルカナダンジョンは?」
イブが慌てた様子で起き上がる。シーツがずり下がり、豊満な胸にシーツがかろうじて引っかかった。
「い、イブさんっ! ここにはエリクもタック王子もいるんですよ!」
慌てたマリナが替えのシーツを持つと駆け寄りイブの身体に巻きつけた。
「安心しろイブ。あのダンジョンの入り方に関しては王族の人たちが調べてくれることになったから」
先程、新しいアルカナダンジョンを発見したことを伝え、その開け方がわからないという話をしたところ、それぞれの城にある機密図書を確認してくれることになったのだ。
「なるほど、では当分は他の研究をしながら待つのですね」
「そうだね。今度のアルカナダンジョンも一筋縄じゃいかないだろうから準備をしておこうか」
僕の言葉に全員が呆れた様子をみせる。
「世界で最難関のダンジョンを登山感覚で。流石エリクですね」
「お前には緊張感ってものがないのか?」
「ん。エリクは色々常識がない」
いったい何だというのか?
僕はこれでも常識的な人間の部類に入るとおもうんだ。
趣味はお菓子作りだし、本を読むのも好きだ。友人と雑談をしていれば幸せとすら思っているのに……。
どうやら皆の僕に対する認識がおかしいのは薄々感じていた。
「そ、それでこれからどうされますか?」
アンジェリカの質問に……。
「まあ当分は進展がないだろうからね。授業も随分と休んじゃったししばらくはアカデミーでのんびりするとしようか」
このところモンスターやらデーモンやらと戦っていて殺伐としていた。ここらでのんびり学園生活を送るのもありだろう。
「エリクが学園に通う意味あるのか?」
「少なくとも教える教師が可哀想……元からでしたね」
「私たちがエリクに色々教われるから」
3人の言葉に僕は。
「そっか。もう正体がバレてるんだから自重しなくていいよね?」
「「えっ?」」
タックとマリナが頭上に疑問符を浮かべる。
「タックとマリナも僕のゴッド・ワールドに来るといいよ。そこなら物や壁が壊れるのに遠慮なく戦うことができるからさ」
これまではアカデミーの建物だったために遠慮していたが、もう少し派手に動くことができる。
「……いっとくけど、地獄という表現では生ぬるいよ?」
ルナが何やら良く解らないことをいう。
「の、望むところです! エリクが攻略者ならそんな相手に教えてもらえるのです。むしろ手を抜かれては困ります」
「だな、きっとどこまでも行けるだろうさ!」
タックもマリナもやる気十分なようだ。
「イブも元気になったらお手伝いしますね。新しい魔法も解析しましたので」
嬉しそうな笑みを浮かべるイブ。
「ん? イブ新しい魔法って?」
コアの解析はお願いしていなかったが、いつのまに?
「マスターがメテオを放ったじゃないですか。あの瞬間、イブは全力で解析をしていたんです。それでメテオの威力を1/1000まで抑えた【プチメテオ】を編み出したんです。そのお蔭で消耗しきって倒れちゃったんですけどね」
「「「「なっ!」」」」
「そんなことをやっていたのか。無理するなと言っただろ?」
「ごめんなさい。でもあの時しか解析できなかったのでつい」
僕はイブを叱る。
「全く。イブは時々常識が抜けるからな。でも新しい魔法は助かる。ありがとうな」
「えへへへ、マスターの為ですから当然です」
そういって2人で笑っていると他の4人がしらけた様子を見せていた。僕はすぐに思い直すと……。
「あー、こほん。皆。イブがごめんね。彼女は時々行動がおかしいからさ」
イブのフォローをして見せるのだが……。
「「「「お前が言うなっ!」」」」
なぜか僕が罵倒されてしまった。
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