第199話業務報告

「それでは、報告を聞かせてもらえるか。エリク?」


 豪華な調度品が置かれた会議室で僕はアレスさんから促された。


「そうですね。まずは結果から」


 全員が聞いているかどうかを確認するために周りを見渡す。

 円のテーブルの向かいにアレスさん。そこから右回りにバチルスさん、アーサーさん、アルテミスさんが座っている。左回りにはタック、マリナ、ルナ、アンジェリカが同じく座っていた。


 僕は皆と視線を交わすとはっきりと言った。


「昨晩の山脈消滅は僕が放ったメテオの魔法によるものです。僕はこの魔法を使ってデーモン軍団を一網打尽にしました。生存しているデーモンは完全にゼロです」


 全員が驚き表情を浮かべる。


「特に疑問がないようなら次の話に――」


 皆からのリアクションがなかったので続きを話そうとすると。


「「「「「「「「いやいやいやいやいやいやいや」」」」」」」」


 その場の全員が席を立ち騒ぎ始めた。


「どうかしましたか?」


 僕は不思議そうに首を傾げる。


「まずどうやってそこまで行ったんだよ!」


「メテオって何ですか!」


「山脈を消滅って……?」


「1人で全滅させたとか冗談だろ?」


「のっけからとんでもない話題を突っ込んでくるわね」


「かっかっか、面白い奴だ」


「あああ、エリク様が目立ってしまいます」


「あきらめろアン。こうなる運命だったのだ」


 一度に言われても僕は聞き取れないのだが……。イブが健在なら誰が何を言ったのか教えてくれるはずなのだが、今は安静にしているからここにはいない。


 僕はかろうじて聞き取れた部分、皆が疑問に思っていることについて答えることにした。


「メテオというのは僕がアスタナ島で手に入れたアルカナコア……あのアークデーモンはアルカナオーブと言ってましたね。それを使って覚えた魔法のことです」


 皆が静まったのをみて続きを話す。


「この【メテオ】の魔法は膨大な魔力とSPを消費して天から隕石を召喚する魔法なんです。デーモンの数は多く、いちいち相手をしていては逃げられてしまう可能性があったので一気に押し潰してきました」


 説明は以上。なるべく簡潔にわかりやすく伝えたつもりだ。僕は満足していると……。


「というか今、さらりと言いましたけどやはりあの仮面の男はエリクだったのですね?」


「うん。そうだよ」


 慌てているマリナに僕は素直に返事をする。


「ってことはあれか! シーソラスの杖もお前が……?」


「あれなら修復して保管してあるよ」


 タックの問いにもはっきりと答える。


「エリク結局自分でばらした。それより今度メテオ見せて」


「いや、あれは流石にぽんぽん打てないから」


 魔法と名が付けば気になるようでルナがおねだりをしてきた。


 僕らがわいわいとやり取りをしていると……。


「本当にこの子が攻略者……長年の伝説を打ち破った存在なの?」


「あれだけの力をみせつけられたのだ、信じるしかあるまい」


「しかし、そうなると問題が……」


「ああ、流石に洒落にならんな」


 アルテミスさんとアレスさん、険しい顔のアーサーさんとバチルスさん。彼らは警戒するような視線を僕へと向けてきた。


「エリクよ。1つ質問をさせてくれ」


「はい。なんですか?」


 アレスさんがいつも僕に向けるのとは別の険しい顔をする。


「そのメテオとやらは何度でも唱えることができるのか?」


 残る3人がゴクリと喉を鳴らす。


「いや、流石にそれは無理ですよ」


 祝福で上乗せして全ての魔力を消費したうえかなりのSPを持っていかれたのだ。


「そ、そうだよな……」


「まさかあの魔法をポンポン撃てるわけがないわよね」


「全く驚かせやがって」


 なにやらほっとした様子の皆に言う。


「すぐ撃てと言われても1回までですね。ちなみにあれで3割の力なので、全力でうとうとすると流石に僕も身体がもたないようです」


「「「「はぁっ!?」」」」


 正確な情報を伝えたところ、全員が叫び声をあげた。




「エリク。お父様たちはエリクのその魔法が自分たちの国に落とされないか不安なのですよ」


 オーバーなリアクションをみているとマリナが彼らの心を代弁してくれた。


「僕がメテオを落とす? なんで?」


 どうしてそのような話になるのだろうか?


「ママたちはエリクと出会って間がないから。私たちほど信じられないんだよ」


 ルナの言葉に僕はそういうことかと理解する。


「つまり僕が何かの拍子に皆さんに怒って城にメテオを降らせるかもしれないと?」


「実際、アークデーモンにキレてたお前は怖かったしな」


 失敬な。例えキレたとしても分別くらいわきまえてる。


「安心してください。例えどれだけ怒ってもそんなことはしませんよ」


「どうしてそう言い切れる?」


 その問いに僕は笑顔を浮かべて答えた。


「僕の望みは世界中の人々が笑顔で幸せな生活を送ることです。無関係な人を不幸にするような魔法の使い方はしません」


 その言葉に全員がほっとするのだが……。


「あっ、でも。僕の親しい人たちに手を出す場合は容赦しませんよ。アークデーモンみたいに地獄を見てもらうつもりですから」


「そこで追撃するとはえげつねぇなお前……」


 タックのしらけた視線をうける。大勢の前で僕のスタンスを表明しておくのは大事だからね。


「そういえばタックとマリナにルナはそれほど僕に怯えてないね?」


 アルカナダンジョン攻略者でメテオを使ったのだから大人たちと同じく怯えても不思議じゃないのだが……。


「俺はお前が化け物でも親友だからな」


「エリクを信じてるから」


「エリクが他人を傷つけるとは思えませんもの」


「わ、私だってエリク様を慕ってますわ」


 なぜか顔を赤くしているアンジェリカ。僕は良い友人たちに恵まれているようだ。


「とにかくメテオだかのお蔭でデーモン軍団は壊滅した。それで一件落着ってことでいいんだな?」


 バチルスさんが纏めるとようやく危機意識が薄れたのか全員に笑顔が戻る。



 これから和やかな様子で話が進みそうだなというところで僕は言った。



「では次の話に進みますね。僕がメテオで潰した山脈から発見された新たなアルカナダンジョンについて――」



「「「「「「「「いい加減にしろっ!」」」」」」」」


 なぜか全員が目を吊り上げると怒鳴りつけてくるのだった。




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