第196話一気に潰す!
「ば、馬鹿な……本気であのデーモン軍団を相手にするつもりなのか?」
僕とイブの話し合いがまとまると、アークデーモンが驚愕の表情を浮かべていた。
「というわけで、僕はこいつに構ってる場合じゃなくなったので。倒すのはこの場の皆に任せていいですかね?」
だが、僕の呼びかけに皆はどう答えたものか悩んでいる。まだ僕が行くことに納得していないからだ。
「まあいいや、取り敢えずやることだけやっておきますね」
僕は意識を集中して手をかざす。すると…………。
「おおっ!」
「なんだこれは……神々しい」
【神殿】が中空に浮かび上がった。
「皆。これに祈ってみてください」
詳しく説明をしている暇はない。彼らは困惑気味ながらも僕の言うとおりに祈りを捧げた。
「す、すごい! 力が溢れてくる」
「これは……俺の普段の力の2倍ぐらいか!!」
流石に1000%アップはやり過ぎなので祝福の効果は減らしておいた。
「それじゃあ、僕とイブは行きますので宜しくお願いしますね」
それでもあの手負いのアークデーモンを倒すぐらいはわけないだろう。
僕はこの場を皆に託すとイブと共に飛び立つのだった。
「マスター。手を繋いでいただかなくても平気ですよ?」
山脈に向かう途中、僕はイブの体調を慮って手を引きながら空を飛んでいた。
「あっ、ごめん。嫌だった?」
僕がそんな質問をすると。
「本来はイブがマスターのお世話をさせていただくはずです。なので申し訳ない気持ちの方が大きいのですけど……」
「けど?」
「嫌ではありません」
イブの主張に僕は口元が綻ぶ。
「クエクエックエエエー」
「キャルルルルーーー」
カイザーとカイザーの背中に乗っているキャロルが並行飛行をしている。イブが本調子でないので護衛をお願いしたのだが、張り切った様子で安心だ。
「僕とイブは敵の主力を叩くから。カイザーとキャロルは露払いをお願いするね。近寄ってきたデーモンは遠慮なしに屠るように」
「クエクエッ!」
「キャーーールッ!」
かしこまりましたと敬礼をする2匹。カイザーが翼を曲げたので失速してしまい慌てて追いかけてくる。
2匹にも神殿の祝福を与えてあるのでそこらのデーモンでは相手にならないだろう。
「さて、到着っと」
僕とイブは山脈の上空まで来ていた。まだ中心からは離れているのだが、地面にはレッサーデーモンがうようよいるし、上空にはグレーターデーモンが防衛網を敷いている。
おそらく先程のアークデーモンから情報がいっているのだろう。どいつもこいつも敵意をむき出しだ。
「どうするんですかマスター。このままわかれて1匹ずつ屠り続けますか?」
支えるために腰に左手を回しているせいかイブが至近距離から見つめてくる。
「いや、それだと1人あたり250匹ずつ相手にする計算だからね。そんなちまちまやる余裕は流石にないよ」
特に敵はこっちが来ることをわかっていたので万全の守備を固めている。山脈の中心に本丸があるのか、僕を通すつもりはないようだ。
「ではどうしますか?」
カイザーとキャロルが近寄ってくる雑魚デーモンを倒しているのが見える。
「ちまちま倒すのが面倒なら」
「面倒なら?」
「一気に潰す!」
イブが首を傾げたので僕はその作戦について話した。
★
「くっ……まさかただの人間をここまで強化するとは……」
この場にいる6人の王族を相手にアークデーモンは満身創痍になっていた。
エリクとイブが山脈に向かってから、タックとマリナにルナ。それにそれぞれの親たちは見事な連携を駆使してアークデーモンを追い詰めて行った。
元々の実力が高いうえにエリクの【神殿】で能力をアップさせているのだ。そんな人間が6人ともなればアークデーモンに勝ち目はない。
「だが、どれだけ我を痛めつけたところで無意味だ! あちらには我以外にアークデーモンが9匹いる。しかも小僧が向かったという情報は共有済みだ。各地へ向かう予定のデーモンも戻して完全に小僧を殺す布陣を敷いているのだ」
戦いは質より数。エリクが1匹のレッサーデーモンを屠っている間に9匹のアークデーモンが攻撃を仕掛ければ流石に無事では済まないだろう。
デーモンたちは狡猾にも弱い者から順番にエリクにぶつけて疲労を誘うつもりだ。
あわよくばエリクの死を印象付けることでこの場の全員の動揺を誘うつもりのアークデーモンだったのだが。
「エリクは絶対に負けない。エリクならあのデーモンを全滅させて戻ってくる」
「そうだぜ! 俺の親友は今まで口にしたことは全部守ってきた。今回もやってくれるさ!」
「あなたはどうやら私たちのエリクをまだ過小評価しているようですね。彼ならば必ずや奇跡でもなんでも起こしてデーモンを何とかしてくれます」
揺さぶりは効果がなかった。これまでの年月を共に過ごしてきた3人はエリクのことを誰よりも知っている。常人には……いや、英雄と言われた自分たちの両親にも不可能なこともエリクならやり遂げる。そう信じているのだ。
「だったらその奇跡とやらを見せてみろっ! いくらお前たちが吠えたところで絶望的な戦力差はひっくり返らんのだ! 我らはこの時が来るまで準備に時間を要した。その戦略があんな小僧1人に何とかできるわけないだろう!」
恐怖を吸えないばかりか希望の感情が流れてきて不快になったアークデーモンは怒鳴り声をあげるのだが……。
「おいっ! あれはなんだ?」
アーサーが外を指差す。
「なんですか……あれは……? えっ? ちょっと……ありえないですよ?」
「空から、隕石だ……と?」
この場の全員が、いや。恐らくは大陸中のあらゆる場所にいる人間がそれを目撃しただろう。
上空から飛来する炎を纏った巨大なる隕石。それが落下しているのを全員が見た。
「なんなんだ! なんなんだ! なんなんだ! 我らは100年の時を待っていたのだぞ! 少しずつ人の世に潜伏し機会を伺っていた。なのにあの小僧は突然現れて……」
アークデーモンのやり場のない叫びがこだまする。だが、それに突込みを入れる余裕が王族達にも無かった。
隕石は徐々に地面へと落ちてゆく。
まるで何者かの意思が介入したかのように速度を上げたそれは――
吸い込まれるかのように山脈の中央へと落下すると――
「うおっ!」
「きゃあっ!」
大陸が大きく揺れるのだった。
「皆無事か!」
揺れが収まった。そしてしばらくすると吹き上がった煙が風で飛ばされ遠くの光景がはっきりと見える。
「うううう、嘘だ嘘だ嘘だ……嘘だーーーーーーー!」
アークデーモンが絶望の声をあげる。
「ははは、もう笑うしかねえな」
タックが乾いた笑みを浮かべ、皆が注目するその先では……。
山脈が消滅し、そこには大きなクレーターが出来上がっていた。
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