第197話メテオ
「イブさんや……」
「はい、なんでしょうか? マスター」
僕は冷や汗を掻きながらイブに話しかける。
「ちょっとやりすぎじゃあないですかね?」
ゴッド・ワールドの中から僕とイブは山脈の光景を見ていた。
「こ、これでも手加減はしたんですよ! 今ので大体3割ぐらいの威力です」
土煙がなくなり、次第に状況がはっきりしてくる。
「これで3割なのか……」
そこには数キロ程のクレーターができていた。
当然ながらそこにあった山脈は消し飛んでおり、モカ王国とキリマン聖国を結ぶ新たなルートが開拓されていた。
「イブが落ちる場所と威力をコントロールしてくれなかったらやばかったな」
全力で放った場合、大陸に深刻な影響を与えかねないだろう。
「流石はアルカナコアの魔法だな……規格外な威力にもほどがある」
僕が唱えたのは【メテオ】だ。
アルカナコアより授かったこの魔法は、天より隕石を召喚することができるのだ。使用条件がかなり限られるのだが、今回のデーモンを一気に倒すのにはおあつらえ向きだった。
僕はデーモン軍団を一網打尽にするため、この場に向かうことで奴らをここに釘付けにした。
その上で魔法を唱えるとカイザーとキャロルを回収しゴッド・ワールドへと引っ込んだのだ。
結果として、デーモンたちは隕石に押しつぶされて全滅。後にはクレーターが残ったわけだ。
「流石に疲れたな……」
流石は規格外な魔法だけあって1000%増しになっている僕の力を根こそぎ持って行った。
「しかもこれまでこつこつ貯めたSPが半分なくなりましたよぅ」
イブはSPが減ったのを恨めしそうにつぶやいている。
隕石を召喚するのには使用者の魔力の他にSPも必要だったらしく、これまでためてきたSPがごっそりと消費されてしまったらしい。
「まあお蔭でむかつくデーモンは1匹も生き残ってないだろう」
僕の大切な者に手を出した報い。いい気味だ。
逃げられるタイミングは無かったし、気配も感じない。広範囲攻撃なので避難は間違いなく間に合わなかっただろう。僕らは外にでると周囲に生き残りがいないか探るのだった。
「マスターあれ!」
上空からクレーターを見渡しているとイブが何やら発見した。
「あれは……なんだ?」
クレーターの中心部にそれはあった。メテオの威力など問題なしとばかりに佇むそれは……。
「ちょっと降りてみよう」
僕はイブにそう促すともっと近くでそれを見ることにした。
「これは……もしかしてアルカナダンジョン?」
降りてみるとそこは重厚な扉が付いた建造物だった。
「すんすん……どうやらその様ですね。この中からデーモンの醜悪な臭いがプンプンします」
イブは扉に向けて鼻をひくつかせて臭いを嗅ぐと鼻をつまみ嫌そうな顔をした。
「ひょっとするとデーモンが現れた本当の原因はこれってことなのかな?」
僕は扉に触れてみる。メテオの魔法を受けているのに傷一つない。
信じがたいことだが、この建造物はメテオの威力を超える強度を持つらしい。
「ありましたよマスター。【ⅩⅤ】の刻印が刻まれてます」
イブが指さす方を見ると扉の目立つ場所に確かにある。どうやら本当にアルカナダンジョンらしい。
「こんなところに隠してあるなんて……たちが悪いな」
もしかすると山脈のどこかに入り口があったのかもしれない。だが、これまでモカ王国とキリマン聖国の人間がさんざん探索したはずだ。
それでも気付けなかったのだから余程である。たまたまメテオを撃ったから発見できたが、運が悪ければ永久に見つけられないところだった。
「ウーーン! ウウーーンッ!」
イブが扉を押す。だが、どれだけ力をこめても扉はうんともすんとも言わなかった。
「はぁはぁ……駄目ですね。開きませんよ」
押すのに疲れたのかイブが息を切らしている。
「……ふむ。もう一発メテオ落としてみるか?」
僕はアゴに手を当てるとそんな提案をしてみた。
「だ、駄目ですよぅ! 全力のメテオなんて撃ったらSPもイブとマスターの身体ももちません! 大体、アルカナダンジョンを壊してしまったらアルカナオーブが手に入らないじゃないですか!」
「冗談だって」
流石に僕もそこまで大雑把ではない。力押しするのは他に手段が見つからないときだ。
「きっとどこかにスイッチが隠されてて入れるとかだと思うんだよね」
僕は歩きながらぐるりと周囲を見て回る。どうやらそういったものはなさそうだ。
「イブの能力でそういうの察知できない?」
ゴッド・ワールドを管理するイブは色々なことができる。
なので、入り口を探るぐらいはやってもらえないかと思った。
僕が振り返ると……。
「イブ?」
イブが身体をふらつかせている。顔色も悪く汗をかいている。
「大丈夫なのか?」
ふらつくイブを抱きとめる。
「先程のメテオの制御で限界が来たようです」
どうやら無理をさせすぎてしまったらしい。僕はイブの頭を撫でると……。
「悪かった。今日はひとまず戻って休もう」
どのみち城の様子も気になるし、この入り口は生半可なことで開きそうにない。
僕はイブを抱き上げると一度戻ることにした。
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