第194話圧倒的強者

「くそっ! マリナ裏からまわりこめっ!」


「タックこそ! 手を休めないでくださいっ!」


 前後からの波状攻撃を繰り出すタックとマリナ。アークデーモンには聖属性の攻撃が効果が高いという情報を共有しておいたのでマリナをメインに攻撃を仕掛けている。

 だが、アークデーモンはタックの攻撃をさばきつつもマリナから視線を外すことはない。どうやら警戒されているようだ。


「くっくっく、しばらく見ない間に随分と成長したじゃねえか」


「ああ、アークデーモンはSランク相当の強さを持つ。そんな相手に攻撃を仕掛けているのだからな」


 そんな2人の戦いぷりをアーサーさんとバチルスさんが見ている。

 王城の一室は広い。だが、それでも家具などが邪魔になるため同時に仕掛けるのは2人が限界だからだ。


「だが、まだ甘い。お前たちチョロチョロしてて邪魔だから下がれっ!」


 まだ致命傷をくらったわけではないが、埒が明かないと思ったのか2人を下がらせた。


「大陸始まって以来アークデーモンを討伐したという話は聞いたことがないからな。これで俺達もデーモンスレイヤーってわけか」


 バチルスさんが拳をボキボキならしている。


「そうだな。これでまた俺の伝説が1つ増えるというわけだ」


 アーサーさんはそう言うと大剣を振りかぶって突撃した。その動きはとてもじゃないが重い剣を持っているとは思えないほど速い。


「むっ!」


 高速で繰り出される斬撃に次第に回避が追い付かなくなってくる。そしてついにはアーサーさんの攻撃がアークデーモンの肌に傷をつける。


 アークデーモンは驚いた様子を見せつつ後退しアーサーさんから距離をとった。


「次はこっちだおらぁっ!」


 だが、いつの間にかバチルスさんが後ろに回っており、拳を振り上げて突っ込んでいた。

 よく見るとバチルスさんの拳には恐ろしいほどの魔力が集中している。以前、タックが言っていた魔力操作というやつか。あれならば魔力で身体が構成されているアークデーモンにも通用する。


 常人が目で追いきれないほどの速度で拳が次々と繰り出される。背後のアーサーさんにも注意を向けなければいけないアークデーモンは後手に回ってしまい……。


「がっ!」


 アークデーモンは両腕でガードするがバチルスさんの突きの威力に押されて大きく後ずさった。


「ちっ、なかなか硬いやつだな。俺の拳を受けてピンピンしてやがる」


「全くだな。俺の剣技を避けるとはSランクは伊達じゃないということか」


 2人とも少し息が上がっている。だが、言うだけあってかここまでアークデーモンから受けたダメージはなく、それぞれが優位に戦いを進めている。


「いえ、おかしいのはお父様たちです。普通Sランクともなれば簡単にダメージを与えるなんて……ましてや押し戻すなんてできませんよ」


「これだから化け物は困るんだよな」


 2人の意見に同意する。生身の人間がSランクを圧倒するなんて。流石は魔王と聖王と呼ばれているだけのことはある。規格外な力を持っているようだ。


「ちと面倒くせえがこのまま4人で囲めばそのうち倒すことができるだろう」


 いつの間にか家具がない開けば場所まで誘導したようだ。これが彼らの狙いだったらしくアークデーモンを4方向から囲んでいる。


「人間どもめ! 調子にのるなよ?」


 アークデーモンの怒声に全員の目の色が変わった。彼らの間に張り詰めた空気が流れ始める。


「皆、ちょっといいかな?」


 僕はその空気をぶち壊すために声をかけた。


「おっ、あの娘さんはもういいのか?」


「ええ、アルテミスさんが治癒してくれているので大丈夫です」


 バチルスさんに並ぶと僕は答える。


「ここは俺たちが通さないから安心して彼女の元にいてもいいんだぞ?」


「お気遣いなく。大丈夫ですから」


 アーサーさんに手を振った。


「どうしたエリク?」


「エリク?」


 前に進みアークデーモンの正面に立つ。全員の視線が集中したところで僕は言った。


「こいつは僕が倒します」


「「「「えっ?」」」」


「僕はね、この世界に生まれてから多分初めて本気で怒っているんですよ」


 イブを害されたことで頭が沸騰しそうなほどの怒りを覚えている。


「ほう。だったらどうする? たとえ貴様1人が加わったところで我に負けはないぞ?」


 憎らしい笑みを浮かべるアークデーモン。余程自信があるのだろう。


「さっきまでのが我の全力だと思ったか? 貴様のその面を恐怖に変えてみたくなった。本気でやってやろう」


「なっ!」


「くっ!」


「この力は……」


「ほう?」


 アークデーモンの気配が変わった。誇張ではなく本当に力を温存していたらしい。


「くくくっ、貴様らの心の奥底にある恐怖を感じるぞ。我と戦うことでそれが肥大化し、己を保てなくなったものからその恐怖を食らってやる」


 勝ち誇っているアークデーモンの戯言を僕は聞き流す。


「そろそろ行ってもいい?」


「かかってくるがよいっ!」


 両手を大きく開いて僕を迎え撃とうするアークデーモン。僕は地面を蹴るとこぶしを握り締めてアークデーモンに突撃していくのだった。






 ――ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ――


 絶え間なく何かがぶつかる音が室内に響き渡る。


「ぐあああああああああああああああああああああああああああっ!!!」


 それと同じぐらいアークデーモンの不愉快な叫び声も聞こえてきた。


 あれから数十分は経っただろうか?

 いまいち時間の感覚が解らないのでもしかすると数分かもしれない。


 先程から、僕は反撃を一切許すことなくアークデーモンを殴り続けていた。


「す、すげえ。前からすげえと思っていたけどここまでなのか……」


 タックの声が聞こえる。


「あのエリクがここまで怒るなんて……。アークデーモンはどうやらドラゴンの逆鱗に触れてしまったようですね」


 マリナの声が聞こえる。


「俺もたいがい化け物と言われてきたが、あいつの力は何なんだ? 素手でアークデーモンを圧倒するなんて」


 神殿の【祝福】により僕の力は1000%アップしている。バチルスさんの見よう見まねで魔力を通してみたところ出来たのでその力をつかって殴り続けていた。


「これが、攻略者の力なのか……?」


 アーサーさんの言葉を聞きながら、そういえば目の前のこいつが全てばらしてしまったのだと思い出した。


「思っているより硬いけど【スター】ダンジョンの巨人ほどじゃないな。この程度か?」


 この力を使ったときにオリハルコンの丸太を使ったとはいえ僕はSSランクの巨人を倒しているのだ。それに比べれば目の前のこいつは相手にならない雑魚だ。


「くそっ! 人間めっ! 万全の状態なら貴様なんぞに……」


「だったら万全になってから仕掛けてこい。戦場にでてきて言い訳なんてするなよなっ!」


 戯言を抜かすアークデーモンのアゴに拳をぶつける。これ以上弱者の言葉で耳を汚したくなかったからだ。


 アークデーモンの身体が吹き飛び窓を破ってバルコニーへとぶち当たる。


「くそっ……はぁはぁ」


 手すりにつかまり何とか身体を起こしたアークデーモン。


「お前だけは許してやらない。お前には僕の大事な者を傷つけた償いをしてもらう」


 僕は拳を固めながら無造作に相手との距離を詰める。距離が近づきさらに一方的にぶん殴り続けようと考えていると。


「馬鹿めっ! 油断しやがって!」


 次の瞬間。アークデーモンの目から赤い光線が発射された。


「この瘴気光線はただの人間には防げない。この距離なら避けられるものかっ!」


 余程嬉しいのか勝ち誇った声をだすアークデーモン。僕はその必殺と思われる怪光線を……。


「こんなの効くわけないだろう!」


 手で叩き落とした。


「なっ……!?」


 想定していなかったのか間抜け面を晒して放心するアークデーモン。僕はアークデーモンの頭を掴むと言った。


「今のが奥の手? だとしたらがっかりだ。もう君に勝ち目はないよ?」



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