第192話デーモン出現の原因究明
「え、エリク。そいつは大丈夫なのか?」
目の前ではアレスさんが冷や汗を浮かべながらグレーターデーモンを見ている。
他にいるマリナたちの親も同じような顔をしている。
「ええまあ、手錠はオリハルコン製だし、足枷と口枷はミスリルですから。魔法を使おうとしたら魔力を吸収する仕組みになってますので逃げられませんよ」
僕が無力化しているという点を念押しするとその場の全員はほっと胸を撫でおろした。
「それにしても聞いてはいたが……」
「確かにこれは行動が読めないな」
「かっかっか、ぶっ飛んでて面白い奴だ」
王族とはいえグレーターデーモンを見るのは初めてなのだろう。畏怖するような視線を向けてくるので僕はふと思いついて注意をする。
「あっ、こいつから聞いたんですけどデーモンは人の恐怖を栄養にするらしいのであまり怯えないでくださいね」
「いや、怯えてないと思うぞ……。むしろ恐怖を感じてるとしたらお前にだ」
タックが何やらよくわからないことをいう。スタンピード収束までの間に戦場でストレスでも受けたのだろうか?
「と、とにかく。今回のスタンピードの裏にはデーモン共がいたということが判明した」
そんなことを考えているとアレスさんが今回の事件をまとめ始めた。
「ええ、山脈を挟んで向かい側のキリマン聖国にも不自然なスタンピードが発生したようでそれなりの被害が出ていると報告が上がってきています」
アンジェリカの説明を聞いてその場の全員が息をのむ。
「しかしよぉ。どうしてデーモンたちがいきなり暴れ出したんだ? これまでこの大陸でそんな事件が起こったことなかったろ?」
タックの父親のバチルスさんが疑問を口にすると、アルテミスさんがぽつりと呟いた。
「確かに……。これまではデーモンも少数目撃情報がありましたが、知能がないレッサーデーモンが村や街などで家畜を襲うか、街にハイデーモンが現れて騎士団が討伐する程度でした」
ここまで統率がとれた行動をデーモンたちはとったことがないらしい。どうして今回このようなことが起こったのか全員が首を傾げる。
「あの、もしかしてなんですけど……」
「なんだ、アンジェリカ?」
メンバーがメンバーだけに恐縮して挙手をしたアンジェリカにアレスさんが声を掛ける。
「ブルマン帝国が最近奴隷を酷使する政策を発表したかと思うのですが……」
「ああ、あったな。最近国力が上がっている我が国に睨みを効かせるつもりらしい。自国の生産性を上げるために奴隷の労働時間を増やしたのだったな」
「嘘……でしょ?」
労働基準法がないこの世界でも基本的には労働者の人権は認められている。無理な労働をしていたら親方など上の人間が止めてくれるものだし、ブルマン帝国は国民のほとんどが奴隷だが割と大事に扱ってもらえていると聞いていたのだが……。
「つまり、アンジェリカ王女は今回の黒幕はブルマン帝国で、最近なぜか急激に伸びている貴国の国力を妬んで仕掛けてきたということかな?」
最近国力が伸びてきているのは恐らく僕がアレスさんと話した改革や、ハワードさんとの取引のせいかもしれない。
「い、いえ。そんな話ではないです。た、ただ……」
陰謀論を持ち出されて慌てて否定して見せるアンジェリカ。彼女は焦り、言葉を濁していると……。
「デーモンは人の恐怖を食らう。ブルマン帝国は現在奴隷を締め付けているせいで多くの負の感情が渦巻いている状態だ。デーモン出現の発生源は山脈の中心。つまりモカ王国、ブルマン帝国、キリマン聖国。この3つの真ん中で起きている。今回の原因は奴隷の負の感情を栄養源にしたデーモンが復活したということ。そう言いたいのかな?」
「そ、そうです!」
マリナの父親のアーサーさんが纏めてくれた。
「確かにそれはありえるかもしれないわ。よく気付いたわね」
アルテミスさんがアンジェリカを感心した様子で見る。
「するとどうなる? いくらデーモンを退治しようがブルマン帝国が政策を止めない限りはデーモンは無限に湧き出すのか?」
その場の全員が渋い顔をしてしまう。もしそれが正解だとすると現状を打開するのが厳しいからだ。
「とりあえずその辺の事情についてそろそろこいつに聞いてみませんか?」
ここまで話したのは推測でしかない。事実はこのグレーターデーモンに聞いた方が早いだろう。
僕はやつの口枷を外すと……。
「ねえ、とりあえず今言ってたことが事実かだけ教えてくれない?」
「…………」
「聞こえてるよね? それとももっと痛い目にあいたい?」
僕は皆に向けないような冷たい声をグレーターデーモンに向ける。
「……我たちは山脈の北から流れ込む負の感情を糧に活動を開始した」
どうやら推論はあっていたらしい。アンジェリカの推理力に感心する。
「それで? 一体どれだけの戦力がいる? お前たちの最終目的はなんなんだ?」
各国の最高権力者が集っているこの場で情報を共有しておく必要がある。
僕は今回の事件の核心についてグレーターデーモンに質問をすると……。
「くっくっく、それを知ったところでもう手遅れよ!」
「なんだって?」
完全に力を奪われているはずなのに反抗的な態度をみせるグレーターデーモンに僕は眉をひそめると。
「マスター危ないっ!」
「えっ?」
次の瞬間イブが目の前に現れ両手を広げて僕を庇った。
「あうっ!」
一瞬室内を赤い光が満たしイブが吹き飛ばされてくる。
「イブっ!」
「うぅ……」
僕が声を掛けるとイブは胸を手で押さえていた。
そこからは煙が上がっており、何らかの攻撃を受けたのは明白だ。
「なるほど、今のをくらっても生きているのか?」
急に声が聞こえた。
僕の腕の中でぐったりしたイブ。僕は彼女を抱きしめながら目の前にいるやつを睨みつけた。
「おお、アークデーモン様。お待ちしておりましたぞ」
グレーターデーモンが嬉しそうな声をだす。
アークデーモンはそんなグレーターデーモンを無視するとつまらなそうに僕らを見ていた。
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